第24話 毒を食らわば皿まで【瑤視点】

 ☆評価、ありがとうございます(^-^ゞ

 鬱話なので、ご注意くださいませ><


 ◆ ◆ ◆



「「これは……!」」


 王国に戻ったはるかとジョルジュは、同時に声を上げた。城が炎上していた……もちろん物理的に。

 あちこちから火の手が上がり、最早消火困難な状況だ。留守を任せていた大臣は、何をしていたのか?


「なんの冗談かしら……?」

「ハルカっ、父上が心配だ! 私について参れっ!」


 全く状況が分からない。瑤は大人しく、ジョルジュに従った。逃げ惑う群衆を掻き分け、やっと城に着いた。

 そして二人は、玉座の間でにわかに信じがたいのをの当たりにした。


 肩で荒く息をする国王。その傍らには、大臣が血塗ちまみれで事切れていた……。


「「………………………………」」


 あまりにも『非現実的』な光景に、二人は一言も発することが出来なかった。どうせ帰っても、小言程度で済むと思っていたから尚更だ。


 やがて国王が、人間とは思えない形相で振り返った。


「ジョルジュぅうぅぅ……! 遅かったなぁ? もう『手遅れ』だぞ、何もかもなッ」

「ち……父上、落ち着いてくださいませ! 我々には何がなんだか……」


 狼狽うろたえるジョルジュに、国王は「とぼけるでないッ」と一喝した。


「ワシに大臣をけしかけ、内密に『反乱』を企てたのだろうッ!? 貴様らは『浄化』とのたまって、安全圏で高見の見物だったワケだッ! 素知らぬ顔で戻ってきおって……!」


「……何か誤解があるみたいね? 私たちは『今』初めて、この状況を知ったのよ」


「光の巫女よッ! よく涼しい顔で、噴飯ふんぱん物のホラが吹けるな? ワシは水晶玉を通して、“全て”視ておったッ」


 国王は普段から、ジョルジュを信用してなかった。


「ハルカ・サイレンジッ! よくもワシの精鋭部隊を討ち取ってくれたなッ!? 相手が違うであろうッ!?」

「それは……申し訳なかったわ。急に襲い掛かってきたものだから、命の危険を感じてね」


 もちろんウソで、瑤は土下座をした。額と両手はわずかに床から浮かし、そこまでは彼女のプライドが許さなかった。


「この大戯けがッ! 明らかに貴様が、煽っていただろうッ!? 貴様は現時刻をもってクビだッ! ワシの前から、速やかに消えよッ!」


「待ってくださいっ、父上……!」


 これには慌てて、ジョルジュが割って入った。


「ハルカを『追放』したら、誰が浄化を……」


「黙れッ、誰に意見しておるッ!? るだろうッ!? 此奴こやつの『上位互換』がッ」


……取りつく島もないわね。瑤は気づかれないよう、舌打ちした。


「……と、申されますと?」


「そんな事も分からぬか、この大うつけがッ! ユウナ・ホシミだッ! 歪みを己の力に出来るのだろうッ!? さっさと連れ戻しにいかんかッ」


「は………………?」


 無茶な命令にジョルジュは、困惑した。


「……お言葉ですが、父上。ユウナ・ホシミの放逐を『決定』したのは、他ならぬ父上でしょう?」


「ワシの責任だと申すかッ!? そもそも貴様が闇の巫女の『真の力』を見抜いていれば、こんな事態にはならなんだッ」


 いかにも『後出しジャンケン』が、得意な老●の言うことだ。


「……………………」


「なんだッ、その反抗的な眼はッ!? 己の無能さも理解できぬかッ! ワシは本当は、ジョッシュに皇位を継がせたかったのだッ!」


「な…………意味が解りませぬ! ジョッシュの放逐には、あなたも一枚噛んでいたでしょう!?」


当時・・はなッ! お前がここまで『使えない』とは、思わなんだッ! 王国の伝統で仕方なしに後継者に『してやった』のに、恩を仇で返しおってッ!」


「父上……!」


 ジョルジュの声は震えていて、全身を大きく戦慄わななかせた。恐らく生まれて初めて、親に『反抗』しただろう。


「私は幼少の頃から、父上の為に身をにして参りましたっ! そのような物言いは、あまりではないのですかっ!?」


「それがどーした? 貴様が一度でも、ワシの期待に応えたことがあったか? もうよいッ、貴様もクビだッ! 何処へなり消えるがよいッ!」


「待って頂戴。ジョルジュまで居なくなったら、誰があなたの跡を継ぐの?」


 瑤は思わず口を出した。純粋に疑問に思いこれに対して国王は、これ以上ないほどの醜悪な笑みを浮かべた。


「案ずるなッ、ワシはまだ若い・・ッ! 今から妻をめとり、新たな『後継者』を作ればよいッ! そこの『出来損ない』にならぬようになッ」


……若いって、どう見ても『還暦』過ぎてるじゃない。度し難いバカさ加減に、瑤は辟易へきえきした。


「なんなら光の巫女よ、お主でもええぞ? 召還には、国が傾くほどの予算を消費つかったからなァ。『それくらい』は役に……ぐはぁ!?」


 突如、国王が崩れ落ちた。ジョルジュが、隠し持っていた短刀を国王の胸部に滑らせたのだ。これには瑤も目を剥いた。


「ジョルジュ、あなた……」

「ハァ……ハァ……! 思い知ったかっ、この疫病神めがっ」


 ジョルジュの眼は、完全に血走っていた。国王はブクブクと口から血の泡を噴き、全身を痙攣けいれんさせた。


「そもそも民の不満は、貴様の代からであろうっ!? おまけに歪みを知っていながら、対応もせず私に押しつけおって! 母上が早死にしたのも、貴様が酷使したからだっ!」


 今までの鬱積を全てぶち撒け、俯くジョルジュ。瑤はそっと肩に手を触れた。


「………………?」


「大丈夫よ、ジョルジュ。私は何も見てない・・・・・・わ。愚かな元国王は、反乱を起こした大臣と『共倒れ』になりました。めでたしめでたし……ってね」


「ハルカ、貴女は私を見捨てぬのか……?」


「こうなってしまった以上、とことんあなたに付き合うわ。いい、ジョルジュ? 私たちは急いで駆け付けたけど、間に合わず王国と『運命を共に』したって事にするの。微調整は私でするわ」


「死を『偽装』するワケか……。だが残った民はどうなる?」


「あなた、意外と優しいのね? それこそ『どうでもいい』ことよ。反乱を起こすくらいだから、後は『独立』するなり好きにすればいいわ。私たちは『死んだ』ことになってるから、どうぞお気遣いなくってね」


 悪魔の笑みを浮かべる瑤に、ジョルジュも腹を決めた。


「成程……国など、また興せばよいか。何故、こんな単純なことに今まで気づかなかった? ハルカよ、は決めたぞ。一から『理想郷』を創り上げ、世界の『均衡』を保つとな。ついて来てくれるか?」


「勿論よ。毒を食らわば皿まで、って言うしね。それに今のあなたの方が素敵よ」



 崩れ落ちる城で、二人は微笑み合った。そのゆく末は『破滅』か、それとも……?

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