第19話 『奇跡』

 はるからが去った後、町には取り残された王国兵が多数いた。目を覚ました兵士は、謝りもせず逃げ帰った。けど、何名かは残ってジョッシュに土下座した。


「申し訳ございませぬ、ジョッシュ様っ! 元きみに斬り掛かるなど、許されざる暴挙! かくなる上は、全員この場で切腹を……!」


「なんでやねん」


 ジョッシュは呆れ顔で、突っ込みを入れた。


「そうしなければ、我々の気が収まりませぬっ!」


「自己満足で、責任を果たすつもりか? それにお前らは俺ではなく、この町に迷惑を掛けた。ならば、町の復旧に尽くすのが筋というものだ」


「なんというお優しいお言葉……あなた様こそ、皇位を継承すべきでした……!」


 号泣する兵士たち。ジョッシュが王国の現状を尋ねると、出るわ出るわ現体制への不満が(´゜д゜) 過酷ブラックな環境に半数以上の者が、かなりムリをしている。


 実際、かなりキツかったもんねぇ……そんな職場、辞めちゃえ(・д・`*) 残った王国兵は償いの為、復旧に尽力することを約束してくれた。



 ◇ ◇ ◇


――翌朝。


 私とジョッシュは、町長さん家に泊めていただいた。奥さんの手料理もすごく美味しかったし、山小屋以来ぐっすり眠れたよ^^

 私は気持ちよく目覚めて、朝の散歩をしていた。はるからに一矢報いて、実に清々しい朝だね。


「ん? アレって……」


 私は木の下で、素振りをしているジョッシュを見掛けた。


「お早うジョッシュ。朝早くから精が出てるね」

「ユウナか。王国を出て以来、朝の鍛練は一日たりとも欠かせたことがない」


 どうりで強いわけだ。ジョルジュとは、同じ兄弟とは思えないね。


「そうなんだ。ジョッシュはいずれ、王国に戻るつもりなの?」

「今さら王国に未練はないさ。あの愚兄ジョルジュが後継者じゃ、衰退が目に見えている。そういうユウナは、これからどうするつもりだ?」


 そう訊かれ、私は「うーん……そうだねぇ」としばし考える。


「やっぱり、元の世界に還ることかな? でも今のところ、手掛かりすらないしね……。それに気になることもあるし」


「気になること?」


 私は「うん」と、頷いて続けた。


「ロゼちゃんの事なんだよねぇ。ずっと具合が悪くて一度、王国の医師に診せたみたい。でも『田舎者に時間は割けない。薬は処方だしておく』って、言われたんだって」


「……それ、ただのヤブ医者だろ」と、呆れるジョッシュ。


「お世話になったから、なんとか力になってあげたいなぁ……。そうだ! こんな時こそ、鑑定スキルの出番だよ」


 私の能力なら、体にいい薬草を見分けることが出来る。


「この辺は魔物は少ないが、気をつけろよ。なんなら、ついていこうか?」

「大丈夫だよ、すぐ戻ってくるし。ありがとね」


 私は近くの野原で、鑑定スキルを駆使して薬草を採取。さらに進化した能力で、その場で『調合』を実施した。


「できたぁ! オリジナルの薬草だよ^^」


 我ながら、いい出来だね。これなら快復が早まりそう。私は早速、町長さん家に戻った。



 ◇ ◇ ◇


「薬草……ですか」


「はい。私の鑑定スキルで、選りすぐりの薬草を調合しました。少しは良くなると思います」


 流石の町長さんも、半信半疑だ。


「あなた。巫女様が用意してくれたのよ」


 奥さんに促され、町長さんは薬草をせんじてロゼちゃんに一口飲ませた。すると……


「ん……あれ? パパ、体がすごく楽になったよ!」

「なんと……本当なのかっ!? 信じられん……あらゆる方法を試して、ダメだったのに!」


 ご夫婦は抱き合って、娘さんの快復を喜んだ。


「巫女様。正直、私たちは半ば諦めておりました。巫女様が、“奇跡”を起こしてくださったのです。うぅ……」

「本当に、なんてお礼を申していいのやら……これでやっと『宿』を再開できます」


 え? ここって宿屋だったの? 確かに広くて、奥さんの料理も美味しかったけど(*゜Д゜*)


「私は町長の傍ら、宿屋も経営してまして。娘の看病で、休業してましたが……」

「そうなんですか。町長さん、宿屋を私にも手伝わせてもらえませんか?」


 私の提案に町長さん夫婦は、顔を見合わせた。お世話になりっぱなしじゃ悪いしね。



 まさかここから、“町作り”に発展するなんて思わなかったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る