第12話 『後継者』【瑤視点】

 西連寺 瑤さいれんじ はるかが『光の巫女』として召還され、早二ヶ月が過ぎた。各地の歪みを『浄化』して過ごす毎日だが、瑤はいい加減飽きた。

 今日も浄化を終え、王城に帰る馬車に揺られていた。彼女には、常に皇子のジョルジュが付き添っていた。


「今日の浄化には、時間を要したな。ん? どうしたハルカ、浮かぬ顔をして」

「別に? いつまでこんな日が続くのかって、考えてたのよ。本当に私は、元の世界へ還れるのかしら?」


 ジョルジュの役目は、主に瑤の愚痴を聞くことだ。また始まったなと思ったが、まぁ『いつものこと』だ。流石にもう慣れた。


「ハルカよ、すまぬ。なるべく貴女が速やかに還れるよう、我々も準備を怠っていない。この世界に貴女は必要不可欠なのだ。もう少し耐えてくれぬか?」


 瑤は小さく嘆息した。『いつも』と変わらないやり取り。ジョルジュの言い分は抽象的で、具体性に欠けている。


「それはもう何回も聞いたわ。たまには『面白い』話でもして、私を楽しませてよ」

「そうだな……面白いかどうかは分からぬが、我が王国の『継承者問題』について話そうと思う。ハルカにも知ってもらいたいと思ってな」


 別にそんな話は興味がないが、まぁ『退屈しのぎ』にはなると瑤は判断した。ジョルジュに「いいわ。聞かせて頂戴」と促す。



「私には『双子』の弟がいた・・。名はジョッシュと言ってな、元皇室の『後継者』だ」

「双子の弟? そういえば、王城にはいなかったわね」


「ああ……ある『事件』が起きてな。皇族内の次期継承者を決める席で、彼奴ジョッシュめは『乱心』しおった。あろうことか、父上である国王を『暗殺』しようとしてな……」


 よくある『お家騒動』ね……と瑤は思った。


「幸い私が早く勘づき、大事には至らなかった。ジョッシュめは以前から計画を企て、父上を『事故死』に見せ掛け、亡き者にしようとしていた……」


「一応訊くけど、なぜ弟ぎみは『破滅リスク』を冒してまで反乱しようとしたのかしら? 案の定、失敗に終わったじゃない」


「……恐らく私への劣等感コンプレックスだ。私に濡れ衣を着せれば、皇位は我が物だと早計に失した。結果は皮肉なことに『愚弟』は王国を放逐され、私の地位は確固たるものになった……」


「ふぅん? でも大丈夫なの、そんな人物を野放しにして。報復の恐れもなくはないわよ?」

「ハルカよ、その点は心配ない。既に国内外に『手配』を施している。ジョッシュよ、なんて馬鹿なマネを……兄は悲しいぞ」


 目頭を押さえるジョルジュ。今の話の『収穫』は、せいぜいジョルジュに弟がいると分かったくらいだ。

 まぁ退屈しのぎにはなったけど、瑤のやることは変わらない。また明日から、単調な日々が続くと思うと憂鬱だ。



 翌日、瑤は「気分が乗らない」と浄化をサボり、集落の一つがまた地図から消えた……。

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