第18話 いざテクスチャの裏側へ

 私は目を開ける。


 窓から差し込む日差しによって起きたわけでも、何かの物音によって起きたわけでも、誰かに起こされたわけでもなく、スッと起きた。


 この部屋には時計もないし太陽も見えないので自分がどれだけ寝ていたのか見当がつかない。


 私は髪を整えたり最低限の身支度を終えた後部屋から出て白い部屋に向か──



 急激に気持ち悪さが込み上げてきて、部屋に備え付けとして用意されていた手洗い場に慌てて向かい全てをを吐き出した。


 夢だと思いたかったが全てを鮮明に覚えている。


できることなら吐き出した全てにそれらも含まれていればどんなにスッキリとした気分でこの部屋から出ることができただろうか。



 私は確かにライラックに魔法をかけられて自由を奪われそうになったのだ。


ご主人様ガチ勢を自負という言葉が頭から離れないので昨夜の出来事は真実である。


しかし、五大魔女の一人の固有魔法をくらって生き残った人間などいるのだろうか。


これは誇っていいこなのではないかと自分を褒める。


よし、部屋から出られそうだ。


どうせ出なくてもここはライラックの胃袋も同然なのだ。


私は個室から出て白い部屋へと向かう。



 白い部屋に着くと、もうみんな揃っていた。


私がウジウジとしている間にもうみんなは決意を固めたのだろうか。



「ネリネちゃん、おはよー! 昨日は良く眠れたかい」


 私は気持ちライラックに目線をよこしながら「おかげさまで良く眠れました」とエリカに返事を送る。


 奥から紫色の大狼がこちらへ向かってきた。


私はこれを迎える様にしゃがみ込むと顔の毛に触れる。


「具合は大丈夫ですか。この色はイメチェンですか?」


「ああ、今日は気分がいいよ。昨日病室に来てくれたんだってな、ありがとな」


 髪色についてはノータッチであった。


私に黙って危険な行為をしたことに彼なりの気まずさを感じているのだろうか。



 狼と戯れながら、周囲を見渡す。


ドラセナもローズも元気そうなので一安心だ。


 緑の部屋の効能は大したものだ。



「よし、みんな揃ったな。改めまして私はライラックだ。同じ調査隊のメンバーでこの領域の主だ。訳があって姿をさらすことが出来ないが全面的に協力するつもりなので安心してほしい。ネリネが太鼓判を押してくれるそうだ」



 どうもうさんくさい自己紹介だなと他人事のように外套に身を包んだ魔女の話に耳を傾けていると急に名前を出された。


みんなの視線がこちらへ集まる。


何か言わなければいけない雰囲気である。


「ひゃい! 私が、保証、します」



 第一声を盛大に噛んでしまった。


私がこういうのを苦手なことを知っているからこその嫌がらせだとしたら相当たちが悪い。


 隣にいる狼は顔を下に向けている。


いやお前だけは笑ってくれるなやという気持ちだ。



 それからライラックは昨日居なかったローズとドラセナに今の状況を全て説明した。


ルガティは私からある程度は思考を共有できるのであんな魔女の分かりづらい話は聞く必要はないのだ。



 陥没穴は獣人の住処の入り口になっていること。


 黒い外套の者たちは獣人であること。


 この世界の本当の姿は大魔法によって上書きされていること。


 そのテクスチャを剥がさなければ獣人たちの好きなタイミングでこちらへ襲撃ができるということ。


 そんな大魔法が使えるのは四大魔女しか存在しないこと。


 四大魔女は第一次陥没穴調査隊であること。


 黒いヘドロは彼女たちが調査を始めたタイミングで地上に噴き出してきたこと。


 今回の陥没穴発生の首謀者は四大魔女なおではないかということ。


 二人は理解できただろうか。


ライラックの話は難しいのだ。


もし私を拾ってくださったのがご主人様ではなくライラックであったのならば、私は彼女の話し方を真似したのだろうか。


あの口調では一生喋ることなどできなかったかもしれない。


それだけでも私は運がよかったと感じる。


迷い込んだのが塔ではく森で本当に幸運であった。



「この話。二人は信じたのよね?」


「まぁね、私の場合はネリネちゃんが答えを導く風に話が進んだから、そういうことなのかなって受け入れた」


「なるほどね」


「僕は大体予想通りの話だったからあんまり驚かなかったかな。ただ首謀者が四大魔女だって話は飛躍しすぎな気もする。もしそうならまだ隠している内容がある気がする」


 いいぞ。ドラセナもっと言ってやれ。


「この話を信じる信じないというよりかはこれからテクスチャに穴を開けて獣人だらけの世界に行くことになるんだけどその覚悟はできた?っていう話だ。もし行かなくても見えない敵とこちらで戦うことになるから。私としては有無を言わさず全員連れて行こうと思うけどね」


 どちらにせよライラックの手口に乗るしかないというのが癪に障る話だが、ここで何もしなくても敵との交戦は避けられないのなら目視が出来る一応フェアでアウェーな所で戦った方がまだ勝算はある気がするのも事実だ。


 私達はお互いの顔を見合って決意を固める。


「私は行きます。お母さんに会える確率が少しでもあるなら」


「私も! ここまで来たからには真相を突き止めたい」


「私も行くわ。もともと神のいる場所には行きたかったし好都合よ」


「僕も助けたい人がいるから」


「よし、では今からテクスチャに穴を開ける」


 ライラックは何やらぶつぶつと詠唱を始める。


ここは彼女の領域内である。


魔法使いが最大の力を発揮出来るの場所が自身の領域内である。


ここでテクスチャに干渉をすることができなくてはどこでできるというのだ。


 周囲の空気が一変して凍りついたような感覚がする。


 ライラックは詠唱を終えると右腕を虚空に突っ込んだ。


私にはそうとしか見えないがあそこはどこかへと繋がっていてそこから何かを取り出すのであろう。



 彼女が腕を引き抜くとそこには一振りの剣が握られていた。


異様な形であった。


真っ直ぐではなくウネウネと刀身が波打っている。



「さぁ、今から破る! 私の後ろへ来て」


 私達はライラックの後ろへと集まり固唾を飲んで見守る。


「はー!」


 掛け声と共に彼女は逆手に持ち直した剣を虚空へと突き立てる。


 先程の剣を取り出した時とは異なり虚空が七色に光りだした。彼女は剣を両手で持ちおもいっきり下へと切り裂いた。


 そこには人一人やっと入れるくらいの空間が発生した。


「さぁ私は最後に入るから早く入って。もしかしたら外套の奴らが待ち構えているかもしれないから気をつけてね!」


「皆絶対無事に帰ろうね」


 エリカはそう言うと空間に入っていく。

 その後をローズとドラセナはついて行くように入っていく。


「ほら、ネリネも!」


「Sentinel!ver.2.0! Triple Shield Active」


 私は自身の周りに3枚の盾を展開する。


「ライラックさん。私信じていますからね」



 それだけいうと答えは聞かずに私はルガティと一緒に空間の中へ飛び込んだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る