第14話 調査2日目⑤ ブラックアウトⅡ
ズザッザという着地音と共にルガーから声が掛けられた。
え!まさかそのまま着地した?
彼のことを見上げるとふん、どうだと言わんばかりだ。
「いや、なんで満足気なんですか。そのまま両足で着地したんですか! 脚力どころか体が丈夫すぎて怖いです」
「なんだよカッコいいだろ! ん、リリー。敵がどこから来るかわからない。盾を展開しておけ。守るのは自分だけでいい」
私はルガティに言われた通り2枚のシールドを常駐で展開する。視界は真っ暗である。魔力を感知できれば多少の情報は確保できるかもしれないが、それができない私にとっては文字通りの暗闇である。
それでも頼りになるのは音や殺気である。私は聞こえる音に集中する。前方から地面を蹴り上げた音が聞こえた。
「ルガー! 正面!」
ルガティは前の方を脚で横薙ぎにする。見事に男の斧に的中した。それを確認するとルガティは右腕を振り上げる。
「昨日の比じゃねぇぞ! 歯食いしばれヤ」
右手をかたどるように魔力の鉤爪が現れる。彼はそれを外套の大男に向かって振り下ろす。空を裂く轟音と共に血飛沫が飛ぶ。男の左肩から右の腰まで一気に切り裂いたのだ。
男はよろける。体勢を崩しながら手斧を振るうが、腰が入っていない一撃など恐るるに足らない。私は男の胴体目がけて盾を1枚射出する。不意をついた一撃は男を地面にめり込ませた。
「よし、いいぞリリー。顔を拝んでやろうじゃないか」
ルガティが男のフードを捲る。彼の動きは止まった。私はルガーの背中で見えないので、顔を覗こうと一歩踏み出す。それを見越していたかのように、工房内でローズと交戦していた槍使いが飛んで来た。
「危ない!」
私は2枚のシールドを自分とルガティそれぞれに付与してガードする。槍での攻撃はフェイントだと確認した時には、もう二人の姿は無くなっていた。槍使いは大柄の男を回収すると闇に姿をくらましたのであった。
「ルガティ大丈夫ですか?男の正体はなんだったのですか?」
「それは──」
「ネリネちゃん危ない!」
ルガティの声を掻き消すようにエリカの叫び声が私の耳へ届いた。私はシールドを声の方へ向ける。すると何かを弾く音がした。矢が飛んできたのである。
下半身を馬の姿に変えたエリカが走ってきた。
「私の相手は弓使いなの! でもこの視界の悪さじゃ相手を確認することもできないの! 何か手はある?」
「分かりました! エリカさんに1枚、私のシールドを付与します。とりあえずそれからどうにかしましょう」
私は常駐させるシールドを3枚に増やしてエリカに1枚付与する。
その間にもエリカに対して矢は飛んでくる。
その攻撃を盾はオートで受け止める。
「わぁ、これは便利ね。そしたらとりあえずみんなと合流しない?」
「そうしましょう。ルガー、狼に戻れますか!」
ルガティは放心状態であった。
エリカはそんな彼を小脇に抱える。
「ネリネ! 何があったか分からないけどとりあえず離れよう。さぁ乗って」
「ええ!!!」
私はエリカに飛び乗り、後ろから彼女の体に抱きついた。
「しっかり捕まっててよね!」
彼女は凄い速さで駆けた。速すぎて空を駆けているように思える。いや実際に空を駆けているのだ。視界の端に倒れている人影が見えた。
「右!」
私は豪速の中、簡潔に彼女に伝える。そうでなくては舌を噛み切ってしまう。エリカは空いてる腕で倒れているローズを抱えるとまた走り出した。魔法の矢が飛んでくるがそれは私の盾で対処する。
後はドラセナだ。
「ちょっと、どこよドラセナは!」
その直後、とてつもない大きさの咆哮が聞こえる。エリカはカーブを描くように方向を綺麗に変えると、その咆哮の方へ駆け抜ける。剣を持った黒い外套が膝をつく男の子に向かって近づいていた。
「ネリネ! お願い!」
走っているエリカの背中の上から私は叫ぶ。
「Sentinel!」
少年の前に大きな盾を展開する。剣を弾いた隙に、私は腕を下に伸ばして少年を引き寄せる。落ちないようにドラセナを腕の中に入れてエリカの体に抱きつく。
私たちは見事に全員回収することに成功した。
「エリカさん、秘密の部屋を知っているんです。行きますよ」
「え? なにそれ!」
私は返事を聞かずに指輪に念を送る。すると白い部屋に全員でワープする。
「よくやったねネリネ! だけど流石にお友達をたくさん連れて来すぎじゃないの?」
ライラックが出迎えてくれる。一先ず、誰も漏れることなくワープすることが出来た安心感に胸を撫で下ろす。
「ここはどこなの? それであなたは?」
エリカは両脇のルガティとローズを丁寧に降ろした後、黒い外套の彼に目を向けた。
「すまない。紛らわしい格好をしているが私は君たちの仲間だ。第5次陥没穴調査隊員のライラックだ」
「あなたがライラックなのね!」
「あれ、エリカさん初対面なんですか? 私にライラックさんは──」
「あー、そうなのよ。初めて会ったわ」
エリカさんは私の口を塞ぎながら初対面だということを主張した。凄いこわい顔をしている。
「ネリネ。それでここに全員逃げ込んでこれたのはいいんだけど、これからどうするんだい?」
「まずは皆さんの怪我を治します。そして私はあなたと答え合わせをします」
「ほーう、それは楽しみだ! 私も治療に精を出そう!」
そう言うとライラックはドラセナ、ローズ、ルガティを纏めて抱え上げて別室に連れて行った。
「ねぇネリネちゃん、あのライラックっての信用出来るの?」
「私も詳しくは知りませんが。信用は出来ます。それに今は彼の力を頼らなくてはどうにもなりませんので」
「わかったわ。ネリネちゃんに私の命を預けるわ」
エリカは変身を解くと座り込んで、自分に回復魔法を施し始めた。私も隣に座って小さなご主人様を出して回復魔法を施してもらう。
エリカは何それ可愛いとご主人様のことを指で突いた。私はご主人様を抱きかかえる。
「ワ! ビックリシタヨ」
ご主人様は片言で驚きを表現する。それに対してエリカの興味はより一層に惹きつけられたようだ。ご主人様を抱えた私とエリカで鬼ごっこをしているとライラックが戻って来た。
「何をしているのだね。早くそこに座るんだ」
ライラックが指を鳴らすと二つの椅子が出てきた。
私はSentinelを解除すると椅子に座った。後から少し不貞腐れた様子のエリカが私の隣の椅子に腰をかける。
「ライラックさん、これだけ確かめさせてください。ルガーからは聞けなかったのですが、外套の者は獣人ではありませんか」
「ああ、その通りだ」
「ちょっと待って、ネリネちゃん! それって正気なの。獣人ってあの歌の? 本当に存在するの?」
子供に言い聞かせる有名な歌がある。早く寝るといいとか、ご飯は好き嫌いをせずに食べることなど、ごく普通のことが歌われているのだが、最後に強調されるのが獣の人を見つけたら、全てを捨てて逃げなさいということである。歌になっているのにも関わらず大半の人間は獣人なんて見かけもしないまま人生は終わりを迎える。
私は一つの結論を提示する。
「ディルクナードに現れた陥没穴は獣人の世界の入り口なのですね」
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