第5話「状況」

 彼女(高坂咲希)は、しばらくの間、動かなかった。だが、私が彼女に話しかけても、彼女は一向に答えてくれなかった。彼女は、何かを考えているようなそぶりを見せ、こういった。


「大丈夫だよ。ただ、何にも感じられないんだ。できれば、病院に連れて行ってくれない。」


彼女にしては、しゃべり方が何だか変だった。きっと、何かにパニックになっているのだろう。


 それにしても、「何も感じない」というのがどうも引っ掛かった。彼女は今、目が見えていないのだろうか。もしそうだとしたら、さっきの行動も説明ができる。もしかしたら、目だけではないのかもしれない。耳も、皮膚感覚すらも感じていないのだろうか。

 私は、試しに彼女の手をつねってみた。だが、何の反応もなかった。寮母さんは、慌てて高坂さんの母に電話をしていた。

 その時、高坂さんは、もう一度同じことを言った。寮母さんは、携帯を彼女の口に近づけ、彼女の母に声を聞かせていた。彼女の母も、心配しているようだった。


 寮母さんは、電話を終えると、すぐに救急車を呼んだ。いったい今、彼女に何が起こっているのだろうか。今の状況が、いまいちわからなかった。


彼女はその後も、同じことを、何回も、何回も言い続けていた。

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