4.疑惑
こうしてエズメは毎日、学園から帰ると床磨きや雑用を課された。
家令と執事は別々にサンデール侯爵に、この状況を手紙にしたため従者を送ったが、主人がどこにいるのかわからない。
ミンナとシャルロット以外が、サンデール侯爵とリカルドの帰りを祈るように待った。
学園では教室にいる限り、エズメはシャーロットと顔を合わせずに済むと思っていた。校舎が違うし、庶民科が貴族科へ来ることもないだろうと。
ところがシャルロットは毎日エズメの教室にやってきた。
「おねえさま」
と馴れ馴れしく。
エズメの友達は異変にすぐ気づいた。
シャルロットがいない時、エズメに尋ねた。
「エズメ様、シャルロット嬢が身に着けているのはエズメ様のものでは?」
エズメは言葉を濁した。
「ええ、まあ、そうなの…」
「なぜそんなことに」
「色々あるのよ。まだお話しできないの」
「それにしても」
別の級友が言う。
「場を弁えていないわね。学園にあんなに飾り立ててくるなんて」
「そうよ。あの髪飾りもネックレスも、お茶会でしかお着けにならなかったものですわ」
エズメは目を伏せる。
「父が留守なもので、まだマナーを習っていないのです」
「マナー以前の問題ですわ。エズメ様のものを我が物顔で」
エズメはただこう答えた。
「父が帰るまで何も申し上げられないのです。ごめんなさい」
庶民科教室ではシャルロットは、自分がエズメにいかに虐められているか語った。
最初は同情していたクラスメイト達は、徐々に違和感を覚えた。
『こんなに飾り立てた人が虐められているのか』
次第にシャルロットの言葉に耳を傾ける者はいなくなった。
シャルロットはエズメが公衆の面前で自分を虐める振りをしないのが不満だった。アーネストとなかなか会えないことも。
ある日の昼食後、中庭でエズメとアーネストが話している姿をみつけ、駆け付けた。
「アーネスト様!」
シャルロットはアーネストに飛びついた。アーネストはシャルロットを押しやり
「君は誰?」
と尋ねた。
シャルロットは涙ぐんで上目遣いで不満そうに話し始めた。
「おねえさま、意地悪はやめてください。ひどいですわ。あたしを邪魔ものにするなんて」
二人は鼻白んだ。
そしてアーネストはふと気づいた。
「その髪留めは私がエズメに贈ったものだ」
アーネストがシャルロットに言う。
「おねえさまが捨てたのでいただいたのですわ。ひどいですわね、アーネスト様の贈り物を」
シャルロットは悪びれもせず言ってのけた。
「エズメ?」
アーネストがエズメに問う。
「捨ててなどいません。今はわたくし、自室に入れませんの」
シャルロットがエズメを睨むが、エズメは意にとめない。
「実はわたくし」
エズメが言いかけるとシャルロットが止めに入る。エズメの手を掴んでぐいぐい引っ張て行った。
「あんた、なにを言うつもりなのよ!?」
校舎の脇に連れ込んで、シャルロットがエズメに詰め寄る。
「ありのままを」
淡々と言うとシャルロットは、魔力で守られていることを忘れてエズメを平手打ちした。しかし侯爵家の魔力で守られているエズメに触れるどころか、逆に弾かれてシャルロットは数歩後ろへ飛ばされた。
そこでシャルロットは尻もちをつき呆然とした。
その隙にエズメは校舎へと入って行った。
残されたシャルロットは歯噛みした。
いつになったらあたしの思い通りになるのよ!?
実のところ、毎日華美に装って乗合馬車で学園に通うシャルロットと、徒歩で通うエズメの状況について、学園では憶測が飛び交っていた。
エズメの持ち物を身に着けるシャルロット。
主人不在のサンデール侯爵家。
手の荒れたエズメ。
サンデール侯爵家ではエズメは虐げられているのではないかと。
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