第3話

来栖と鵜飼が話している間に、私は空を高く飛んでいた。

どんどん高度を上げ、を生存させるために必要な空気がギリギリあるラインの高さまで上昇した。


本当はこんなことしたくないけど…。


さっき見た彼は既に瀕死状態、虫の息でもあったが、あれでも彼は、伝説の炎精なのだ。多分、手を抜いて勝てる相手ではない。

事実、さっきの私の手刀を耐え、生きている。

この私の、どんな毒よりも強いこの毒を受けて、まだ意識がある。

多少、やりすぎかもしれない。という気持ちがないことはないが、私の意志は関係ない。だって、私はあの男に歯向かうことができないのだから。


忌々しく光るペンダント。


何度壊してやろうと思った事か。

でも、壊れなかった。壊せなかった。


自分で殴って壊そうとした。しかし、ペンダントに手が触れる直前に手が止まった。

他人に壊してもらおうとした。しかし、どれだけ強く叩いても、殴っても、燃やしても、凍らせても、感電させても、濡らしても、爆発させても、壊せなかった。

それどころか、私を縛り付ける忌々しい呪いは力を強め、今では、自分から言葉を発する事すら不可能になった。

ただ、MASTERに命じられたことにYESと返すだけ。

どこかロボットじみたその行動は、私の心の感情という部分をどんどん曇らせていった。


しかし、一縷の希望にかけて、実験所で一番うまくいった実験体、来栖蜥蜴にペンダントを壊してもらおうと思ったが、当の本人はどこ吹く風。


私が操られていることになんて、まったく気づいていなかった。

一度、コチラのペンダントを見たかと思っても、私の攻撃により、すぐうずくまってしまった。


いつまでこんな地獄が続くのだろうか。

いつまで人ではないような事をしなければならないのだろうか。


たった数カ月しただけでこの有様。この地獄があと数年続くと、私の心はどうなってしまうのだろうか。


そんな考えに、思わず涙が出そうになるが、肝心の目は湿るどころか、赤くもならない。

まるで感情がないみたいに無機質な表情──いや、それは違うか。



しかし、感情はなくとも体は勝手に動く。今だってそう。彼を殺すために急降下の準備をしている。

ホバリングしていた羽を、ぴんと伸ばし、体を斜めに調整する。

すると体は勝手に急降下を開始し、物凄いスピードで地面に向かっていく。


ああ神様。こんな地獄から私を開放してください。私を自由に大空にはばたかせてください。そう願い、もう一度、彼のわき腹を切るのだった。

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史上最強の炎精の能力を体に宿した僕ですが、いろんな人を救っていたら、いつの間にかハーレムになっていました。さて、どうしましょう。 下手な小説家 @hetanasyousetuka

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