ミニミニ狸の妙ちくりんみくじ
実子は身体をブルッと振るわせて、社をみつめた。
地震は嫌い。というか好きな人なんていないか。ああ、嫌々。関東大震災もだけど東日本大震災の揺れも思い出して頭を左右に震わせた。
狸オヤジが全部いけないんだ。って、なに言っちゃっているの。なんだかわけわからなくなっちゃった。
狸オヤジか。
力があるのは認めるけど、やっぱり
そうだ、あのおみくじ。あれも胡散臭さぷんぷんだ。
狸オヤジの師匠が作った不思議なおみくじだって話をしていた。妙ちくりんみくじだっけ。
どう見たって、どこにでもあるおみくじなのに何が違うっていうの。
物は試しだ。一回、引いてみよう。それがいい。
えっと、確か。引く前に願い事を念じてから引いたほうがいいって、ぼんくらオヤジが話していたっけ。
実子は、サッとあたりに目を向けて警戒する。
大丈夫。気配は感じない。ぼんくら、いや、狸オヤジは今もあの社の中だ。
誰にも知られずにおみくじを引かなきゃ。最悪な運だったら嫌だもん。
まずは願い事を。斜め上を見上げて実子は黙考した。
『あたしの願い事か。復讐。違う、違う。忘れてそれは。やっぱり、未来のあたしのことかな。立派な猫妖怪になること。うーん、それも違うか。大金持ちにかな。カッコいい人みつけて、同居する。それとも芸能界でアイドルになる。うーん、どれも違うな。わかんないや。とにかく、あたしの未来に良いことが起こりますように。それでいい』
よし、引こう。
箱に手を突っ込み、おみくじを探す。
あれ、おかしいな。おみくじはどこ。箱の穴に目を押し当て覗き込む。空っぽだ。なんで、どうして。
狸オヤジ、入れ忘れたの。もう、おみくじはどこ。
「おい、違うぞ。おみくじを引くには百円だ。タダで引こうとするな。馬鹿者め」
なに、なに。誰よ。もう馬鹿とは何よ。隠れて馬鹿にするなんて、酷い。
「酷いのはどっちだ。金も払わず、みくじを引こうとするおまえのほうが酷いだろう。泥棒猫が」
ああ、腹立つ。
「文句言っていないで、姿を現しなさいよ」
「お前の目は節穴か。さっきから目の前にいるではないか」
目の前にいるって。あっ、もしかして。おみくじの箱の中を覗き込むと小さな狸がいた。こんなところに。さっきはいなかったのに。
ミニミニ狸はニヤリとして「百円だ」と手を差し出した。
「わかっているもん。百円でしょ」
デニムパンツのポケットに手を突っ込み、百円玉を取り出す。おみくじの箱に据え付けられた小さな
「それでよし」との言葉と同時に箱の中からガサガサという音が微かにした。チラッと覗いてみると不思議なことにおみくじでいっぱいになっていた。なにこれ、どういう仕組み。さっきのミニミニ狸の
「おみくじ、おみくじ、何が出るかな。大吉かな。大吉だよね。あたしには大吉しか、ない、ない」
左手でおみくじの箱の中のおみくじをかき混ぜて。あれ、なんかおみくじが手に引っ付いてきた。変なの。
ちょっと、ちょっと。違うのがいいのに。なに、どうして引っ付いてくるの。しつこいな。
「しつこいとはなんだ。おまえの運勢はそのみくじだ。さっさと取れ」
ああ、そういうことか。さっきのミニミニ狸が自分の運勢を選ぶのか。
おみくじさん。じゃなくてミニミニ狸さん、わかったからそんなに押し付けないで。
「おい、さっきからミニミニ狸って呼んでいるが、俺様の名前は『ミノク』だ。覚えておけ」
「ふーん、名前あるんだ。よろしくミノさん」
「おい、ミノクだ。ホルモンみたいに言うな」
ミニミニなのになんか態度デカイ。うっ、寒気が。チラッと箱の中に目を向けると、鋭い視線がこっちに向いていた。
「ご、ごめんにゃさい。冗談だから、ね、ね。だから悪い運勢にしないで」
「ふん、馬鹿もん。そんなことで運勢変えるか」
「あっ、そう」
そうんなことよりおみくじだ。早く運勢知りたい。
なんだかドキドキしてきた。
『第五十番か』
実子は首を傾げて、おみくじをみつめた。
五十番、五十番。
良い運だったっけ、これ。
えっと、えっと。おみくじの内容なんて覚えていない。狸オヤジに怒られるかな。覚えろって言われたような気もする。まあいいか。気にしない、気にしない。いや、気にしなきゃダメかな。
狸オヤジだったらわかるんだろうか。どうだろう。わからないか。おとぼけ狸オヤジだもん。違ったっけ。ぼんくらオヤジだっけか。
どっちでもいい。というか狸神様にそんなことばっかり言うのはよくないか。ううん、いいの、いいの。だって、どう見たって狸オヤジだもん。
『神様だけどあたしの父さんだもん、何言ったって平気。たぶん』
そんなことより問題は、このおみくじ。
箱の中のミノクだったらわかっているんだよね。引かせたんだから。あれ、いない。というかおみくじもない。変なの。本当に妙ちくりんみくじだ、これ。
さてと、おみくじ、おみくじ。
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