第46話『勢いで告っちゃう地雷系』




 ツカツカと首のネクタイを緩めながら、こちらへと歩いてくる新太さんたち。


「……んだよ、やる気か?」


 それを見るなり、掴まれていた手首が放される。

 それに伴って、滞っていた血流が掌に戻ってきた。

 ちよちよの方に目線を向けると、ウチ同様既に解放され、その場に尻餅をついていた。

 ヤンキー二人は腕まくりをしながら、新太さんたちへと近づいてゆく――――――。

 まさにお互い臨戦態勢といった様子。

 ※ここからは便宜上、ヤンキーA、ヤンキーBという表現を使わせていただきます。悪しからず。


「調子に乗りやがって……!!」


 ヤンキーAが走り出し、大きくその拳を振りかぶる。

 そして――――大振りの右ストレート。

 しかし、その攻撃は新太さんに当たることは……ない。

 紙一重でその右ストレートを躱し、ヤンキーAの腹部にめり込む膝。

 ――――――突っ込んでくる勢いを利用したカウンター……!

 やっぱりこの人、普通に強い……!!


「おぶぅっ……!!」


 悶絶の表情を浮かべるヤンキーA。

 やられ方もダサすぎる。

 ヤンキーBの方はというと、新太さんのご友人が、これまた華麗にハイキックを顔面にお見舞いし、グロッキーに地面に横たわっていた。

 ……ざまあみろ。


「んだよ~、コイツらクソ弱いじゃねぇか」


「どうする? 虎。もっとお灸を据えとこうか?」




「……!!」


「……おい、行くぞ……!」


 手負いのヤンキー達は、「クソ……!」とか「覚えとけ!」とかなんとか言いながら、屋上からそそくさと去っていった。


「口ほどにもない奴ら~」


「見たことない連中だったな……」


 制服を直しながら、改めてこちらに向き直る新太さん達。


「……大丈夫? 間一髪だった?」


 え、嘘。

 ヤバい。

 本物だ。

 いや、偽物とかいないんだけど。

 本物だ!

 これって、ウチに話しかけてる……?

 話しかけてるよねっ!!?


「は、はい……。ありがとうござい……ます」


 極度の緊張で、声がちょっと上ずってしまう。

 新太さんから、なんかキラキラしたオーラが全身から漂っているように見えるのは気のせい……?

 いや、なんか輝いて見える!!


「よかった……」


 顔を上気させながら、静かに笑みを浮かべる新太さん。

 あ。

 ダメだこれ。

 かっこよすぎる。

 もう反則級。

 それはもう殺しに来てるって……!!


「ってかさ~、君たち何でこんな所にいるの?」


 新太さんのお友達は、既にさっきヤンキー達がいた場所にしゃがみ込み、持参したのであろう菓子パンをほおばっていた。


「あ、えーと……」


 ――――――言えない。

 新太さんに会いに来ました!とか、言えない……!!

 想像するだけで顔から火が出そうになる。

 意気込んで来たものの、この有様……!

 実際に目の前にあこがれの人がいると……なんか……ヤバい。

 もう……ヤバい。


「なんか、屋上からの風景が綺麗って……その……風の噂で聞いて……」


「そうなんだ……、まぁ。確かに景色良いよね、ここ」


「あ、はい! そうですよね!」


 ……なんか、いつものウチじゃない。

 頭の中がどこかフワフワしていて、とりあえず当たり障りのないことしか喋れない。

 ヤバい。何だこれ。

 嬉しい。

 マジで嬉しい。

 新太さんと喋ってる……!


「えっと……、一年生?だよね」


 自分の制服の組章を指さす新太さん。

 泉堂学園の学生に義務付けられた、制服の襟についた組章。

 それを見れば、どこのクラスに所属しているかは把握できる。

 もちろん改造しているとはいえ、ウチの制服の襟にはちゃんと組章が付いていたりする。


「えっとウチ……私は、一年一組の来栖まゆりです」


 新太さんとそのお友達の目線が、ウチの背後へと移動する。


「……私も、一年一組です。夏目八千代……と言います」




「えっと……、俺ら自己紹介……いる?」


 ブンブンと音が鳴るほどに縦に首を振って猛アピール。

 ちよちよはそれを見ながら苦笑いを浮かべている。


「そっか……、うん、そうだね。

 えっと……このパンを食べてる変な頭の男は、蔦林虎ノ介。2-2ね。

 そんで俺は…「宮本新太さんですよねっ!!?」


「……え」


「……!!」


「何で、俺の名前……」


 やってしまったあああああああああ!!!!

 はやる気持ちを抑えきれなかった!!

 何やってんだ、ウチっ!!!


 新太さんは現在進行形で、頭に疑問符を浮かべているようで、小首を傾げている。

 クソ……!

 そのすっとぼけた顔も可愛いな!!


「えっとですね……、その……あの……」


「私たち、昨日の序列戦見させていただいたんです!! ね、まゆりちゃん!!!」


 パチパチ!!とフルバースト目くばせしている……ちよちよ。

 何という助け舟!!

 ありがとう、ちよちよ!!!!


「そうなんです!! 

 新太さんの凄いカッコいい闘いっぷりを見て、それでなんか好きになっちゃったっていうか……。

 もう新太さんのことを考えると結構胸とか苦しくなっちゃって。

 正直言うと、今日も新太さんに会いに……」










「……まゆりちゃん」



 ちよちよは目と口をかっぴらき、今まで見たことない表情を浮かべている。

 蔦林先輩は、「~♪」と口笛を吹いている。

 新太さんは……、ほっぺたを搔きながら「……えっと……はは」と笑っている。






 そして。

 その場を謎の静寂が支配する――――――。






 あれ……?

 今、ウチ。

 何言った……???







「えっと……、ははは……うん。ありがとう」



 ほんの少し顔を赤らめる新太さん。


 ウチ何言った?


 ウチ、何言った!!?


 何言ってんの……!?

 ウチ……!!!

 何全言っちゃってんのーーーーーーーー!!!?



「~~~~~~~~~~~!!!」



 死にたい!!!

 ちょうど屋上だし、飛び降りたいっ!!!


「うお、顔真っ赤。おもれー女だなー」


 そこっ!!

 お黙りっ!!!

 蔦林先輩このひとは、完全に面白がっている。この状況を!!

 雰囲気的にも、すんごい食わせ物感のある人だなとは思ったけど……。

 思い直す必要があるみたい……!

 この人ただ最低なだけ!!


「へ~、新太のこと好きなんだ~」


「いや、ちがっ……! 違く……ない、ですけど……!!」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている蔦林(敬称略)。

 性格悪い!

 何この性格悪い生物!!

 名前を出された当の新太さん本人は、頬を赤らめながら困ったように笑っている。

 それも可愛い……。


「何々? 新太のどこが好きなん?」


 もうお前黙れ!!

 黙ってくれ!!

 いや、黙って下さい……お願いだから!


「ってかさ、告白ならサラッとじゃなくてちゃんと言うべきじゃね?」


 それは……その通りだけど!!

 心の準備とか色々あるし……!

 いや、もう言っちゃったから、心の準備も何もないんだけどねっ!!


「あ……う……」


 ……どうしよう。

 新太さん、真っ直ぐこっち見てる。

 いや、待って待って。

 これ、もしかして言わなきゃいけない感じ?

 改めて告白しなきゃいけない雰囲気……!?


「まゆりちゃん……」


 心配そうにウチの顔を覗き込むちよちよ。


「~~~~~~~~~!!!」


 あぁ、もういいや!!!

 言ったれ言ったれ!!!


「新太さんっ!!!!」


「は、……はい」


 ウチの背後にではドギャーン!という雷のエフェクト。


「ウチはっ!! その、だから……ウチはっ!!!」


「……」


「新太さんの……ことが……!!」


「……うん」


「あ……はは……その……」


「……」






「……好きです」




 ―――――ははっ。



 もうマジで……、死にたい。


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