第47話『めちゃくちゃ進展した地雷系』




 ――――――穏やかな昼下がりの時間が、流れていた。

 ウチ達は教室にお弁当を取りに行き、この二人の先輩と……なんかよく分からないけど、一緒にお昼を食べることになった。

 よくよく考えると、何でそうなったのか覚えていない。

 自然な成り行き……?

 多分、新太さんが気を利かせてくれたのか、蔦林先輩が余計な気をまわしたのか……。





「来栖……さんの、その恰好って……?」


「あ、これですか!? ……ふふ~ん、いわゆる地雷系です!!」


 新太さんはサンドウィッチをほおばりながら、ウチの制服をチラチラと見る。

 さっきのヤンキーと違って全然嫌な感じがしない。

 むしろなんか嬉しい。


「……?」


 すると、新太さんはよく分かっていないのか、笑みを浮かべたまま視線をそこら辺にさまよわせていた。


「まぁ、簡単に言うとフリフリしてて可愛い恰好ってことです!!」


 ……厳密には違うけど、何も知らない人への説明にしては、こんなもんでいいと思う。

 実は、ウチもよく分かっていないから。


「あと……呼ぶときは呼び捨てでいいですよ。そっちの方が慣れてるんで」


 どっかのに伊達に毎日怒鳴られていない。


「……分かった。来栖来栖……来栖。……うん」


 ~~~~~~~~~。

 何だろ、めっちゃ嬉しい……!

 新太さんは噛みしめるように何度も何度も唱え、納得がいったのか静かに頷いた。


 あとこの人って、なんでいちいちこんなに可愛いんだろう。

 天然だよね……?


「嬉しそ~~~、まゆりちゃん」


「……別にいいじゃないですか」


 ほんの少し火照った顔を手で隠しながら、先輩の軽口に答える。

 ニヘラニヘラと、捉えどころがない感じ。

 数回言葉を交わしただけだけど、何となく分かってきた。

 多分これが、この人の通常運転なんだ。


「でもほんと……まゆりちゃん、嬉しそう」


 ふふふ……、と母親のごとき包容力マックスの笑みを浮かべ、隣でお茶を飲んでいるちよちよ。

 最初の緊張はどこへやら、いつのまにか和やかに会話に参加している。

 意外なコミュ力の高さを見せるちよちよであった。


「宮本先輩と蔦林先輩って……」


「あっ、蔦林って言いづらいっしょ? 虎でいいよ」


「じゃあ……、虎先輩っ」


「うんうん。それでよきよき」


「宮本先輩と虎先輩は……、いつからお友達なんですか?」


 目の前の二人は眉間にしわを寄せ、ほぼ同時に顔を見合う。


「……いつからだ?」


「俺も覚えてねぇな……」


「中学くらいには、一緒に遊んでいたような気もするけど」と新太さんは腕を組み考え始めてしまう。


「いや、あの……いいんです。そこまで深く考えなくても大丈夫です。ただちょっと気になったっていうか」


 ちよちよはパタパタと両手を体の前で振る。


「……そう?」


「でもまぁ……、厳密に言うとなんだけどな」


「へぇ~……」


 何やら意味ありげに頷きながら、ウチの方をチラチラと見てくる虎先輩。

 一体何……?


「今そいつ、ちょっと怪我しちゃってさ……。まぁ、もうそろそろ退院するらしいんだけど」


「おい……虎、あまり外部に……」


 何かを諫めるような新太さんの態度。

 何々……、一体何なの……?


「大丈夫だ、新太。そこの地雷系をちょこっとだけだからさ~」


「ホントに何……?」






「まぁ、そいつさぁ。……、なんだよね~」




 っ!!!!!

 女!!?

 今、女って言った!!?


「……虎、意味深な言い方はやめろ。

 来栖も、余計な勘違いはしないでいいから。

 女って言っても、もう家族みたいな奴だからさ」



……!?」



 それって……、どういうことっ!?

 もしかして、文字通りの意味っ!!?


「~~~~~~~~~!!!!」


「っ……、いや違う違う。ごめん、俺の言い方が悪かった、落ち着いて」


「ははははははは」


「何呑気に笑ってんですか!!?」


 一体誰のせいで……こんなに心が乱されていると……!!


「いやさ、俺が言いたいのはさ~」


 転瞬。

 ほんの少しだけ、虎先輩の雰囲気が変わったような気がした。

 でも、初めて見る真面目な表情――――――。




「……本当にでいいのかってこと」


「……!」


 虎先輩が言う――――――「さっきの答え」。

 正直、またそれを蒸し返すのかと恥ずかしくなったけど、でも改めてハッキリさせておかなければいけないことなのかもしれない。


 それは……、ウチ自身の出した現時点での結論。


「……いいです。

 本当に、ウチは、ただ新太さんに憧れているんです。

 なので……その、付き合いたいとか、告白の返事をもらいたいとかじゃなくって。

 何て言うんだろ……、「推し」……? 

 ……そ、そう!!

 新太さんは、ウチの「推し」なんです!!!」


「まゆりちゃん……」


 心配そうにこちらを見るちよちよ。

 この子が何を言いたいのかは

 でも、告白してしまった以上今はこれが……最適解、な気がする。


「……まぁ、まゆまゆがそれでいいんなら、いいんじゃねぇの?」


「先輩……」


「……」


「まゆまゆって言うの、やめてください」


 舌をペロリと出し、満面の笑みを浮かべる虎(敬称略)。

 ホントにどっからどこまでがマジなのかが分からない、この人……。

 深く深く見せつけるように溜息をつき、お弁当の残りをチビチビとつつく。



 ***



 ―――――「ところでさ」と、食後の大して中身のない雑談の最中、新太さんが切り出した。


「……二人は授業、大丈夫なの?」


 腕時計を見てみると、確かに時間はすでにお昼休みをとっくに過ぎ、普段であれば授業は始まっている時間だった。


「『朱雀戦』の影響で、一年生も特別時程になってるんです。二人は今日は序列戦ないんですか?」


 ちよちよの問いかけに、二人は首肯する。


「……本格的には来週の月曜からだね。俺は二戦控えてる」


「俺は初日と今日無いから、一気に三戦だぜ~? マジでめんどくせ~」


 朱雀戦は現在進行形で開催されている。

 ……話を聞く限り、一日一戦ペース……なのかな。

 いずれにしても今はリーグ戦の真っ只中。

 二、三年は午後は各々の序列戦を消化し、それ以外の時間は自由時間であると聞いている。

 ウチ達一年も、担当の先生一同『朱雀戦』関係の仕事があるようで、日によっては午後は自習になっている。


「先輩たちは……特訓とか、しなくてもいいんですか?」


「特訓ねぇ……。修練場空いてないし。勝敗とか別にどうでも……」


 欠伸をしながらめんどくさそうに答える虎先輩。

 この人、さっきのヤンキーとの闘いっぷりは見たけど、式神戦の方はどうなんだろ。

 強いのかな……?

 闘争心とか、そういうものはあまり持ち合わせてそうには見えない。


「……先輩って、強いんですか?」


 気になったが最後、いつの間にかウチの口をついて出てきたのは、虎先輩への興味だった。


「……」


「虎は……強いよ。

に関しては、めんどくさがりだけどね」


 ウチの問いに答えたのは、虎先輩本人ではなく、隣にいる新太さん。

 当の本人は眠そうに欠伸をしながら、屋上のあまり綺麗とは言えないコンクリートの上に横たわりはじめた。

 ……この人、自由人だなぁ。


「俺ちょっと寝るわ~……、おやす~~」


「俺もそろそろ行くぞ?」


 菓子パンのゴミやら、ジュースの紙パックやら何やらをビニール袋に入れる新太さん。


 これはひょっとして、そろそろお開き……かな。

 ウチ達も片づけを始めようと立ち上がった、――――――その時だった。


「……わひゃうっ!?」


 誰かに脇腹をツンツンと突かれた。

 いやもう、誰かなんて分かりきっているけど。

 そこ弱いんだけど……!

 変な声出ちゃったじゃん……!!


「……何、ちよちよ」


「これで終わりでいいの……?」


「……?」




、聞くとか……」




 ――――――……!!

 そんなことって、いいの……?

 昨日好きになった人と、こんな風に知り合って。

 一緒にお昼食べて、そして、結構お喋りとかもして。

 それだけでも十分幸せなのに……!!?



「もっともっと、欲張っちゃって、いいの……?」



「……!!(グー)」



 ちよちよは何回も何回も頷き、力強く親指を立てた。

 ゴーサインが出た……!!

 よし、それじゃ行くよ!!!




「あの、新太さん……!!」



「……ん?」



「連絡先、教えてくださいっ!!!!」



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