第45話『ベタな展開に巻き込まれる地雷系』


[5月31日(金) 泉堂学園屋上 12:41]




 屋上につながるドアノブに手をかける。

 ちょっと回してみると、話に聞いていたとおり鍵はかかっていない。


「はぁ……はぁ……ねぇ、まゆりちゃん……。考え直そ……?

 屋上って立ち入り禁止だよ?」


「……ちよちよ、めないで。

 屋上ここにいるって言われたらさ、……そりゃ行くしかないじゃん!」


 思いっきりドアノブを捻り、勢いよくドアを開けた。

 それと同時に、五月末の新鮮な空気が吹き込んでくる―――――。




 ***




 2ー1と書かれた教室の前で、ウチは一人の男子に話しかけた。


『そうです。ウチ達、宮本新太さんに会いたいんですけど』


『ちょっと、まゆりちゃん。ホントに行くのぉ……?』


 ウチは半べそのちよちよをお供に、二年生の階に来ていた。


『宮本……?』


 ウチの言葉を聞くなり、バツの悪そうな表情を浮かべる男子。

 その理由はハッキリしていた。

 昨日の一戦はあっという間に泉堂学園中を駆け巡った。

 ―――――序列最下位が三年生相手に白星をあげた。

 確かに話だけ聞くと冗談みたい。

 だけども、それはただの

 ウチを含めた大勢の前で、新太さんは三年生に勝ってしまった。

 そりゃ……もう、めちゃくちゃかっこよかった。


『フフフ……』


 その時の事、そして彼の顔を思い出せば、自然と笑みが漏れだしてしまう。


『……!』


 目の前の男子は明らかに引いているけど、別にアンタにどう思われようがウチは知ったこっちゃない。


『宮本なら……多分屋上。鍵開いてんだよ、あそこ。

 どうせ蔦林つたばやしと一緒だろ』


 男子は眉根をひそめて、そう吐き捨てると、そそくさと廊下を歩いて行ってしまった。

 何あの態度……。

 でもまぁ……、そりゃそうか。

 新太さんの勝利は当然知っているはず。

 これまで見下していた人の吉報は、気に食わないのかも。


『……怖い人だったね』


『でも、教えてくれるだけよかった』


 あの雰囲気だと門前払いされる可能性もあった。

 一応あの男子には感謝しとこ。




 ***




 高鳴る心臓を必死に抑え、屋上に一歩踏み出す。

 晴天。

 眩しい太陽のもと、キョロキョロと周りを見てみると、―――――誰もいない。

 一応立ち入り禁止扱いになっているからなのか、掃除が行き届いていないんだと思う。

 苔とかめっちゃ生えてるし……。


「いないね……」


 その言葉に反して、どこかほっとしたような声音のちよちよ。

 う~ん。

 もしかして、あの男子に嘘つかれた……?


 今ここから見える範囲に新太さんどころか、人っ子一人見当たらない。


 不意に。





「~~~~~~」


「~~~~~~」





「話し声……?」


「……っ!」


 誰かいるっ!!

 ウチはかすかに聞こえた声の方向へ、衝動的に歩き出していた。


「あっ、ちょっと、まゆりちゃん!!!」


 新太さん、新太さん、新太さん、新太さん、新太さん……!!!

 近づくたびに、聞こえてくる声が明確になっていく。

 ヤバい。

 めっちゃドキドキする。


「……!!!」


 多分、貯水槽の裏……、あそこかっ!!!

 もはや早歩きじゃなく、走っているといってもいいくらいの速度。

 はやる気持ちを、抑えられないっ!!


「新太さんっ!!」


 意を決して、勢いのまま、貯水槽の裏を覗き込んだ。

 ―――――すると、そこには。












「……あ?」


「んだよ、おめー」



 その場に座り込んで、タバコを吹かしている二人組の男子がいた。


「ヤンキー……!?」


「まゆりちゃん、ちょっと、待ってってば……!!」


 後から追いついてきたちよちよも、目の前のヤンキー二人を目にした瞬間、「っ!!」と目を見開く。


「ヤンキー……? いきなり何だよお前」


 そう言いながら立ち上がるヤンキーの片割れ。

 そのどちらも髪を訳わからない色に染め、いつの時代?ってほどに制服をダルダルに着ている。

 ガラの悪そうな表情。

 新太さんとは似ても似つかない―――――。


「……それ地雷系って奴っしょ? 俺、初めて生で見たんだけど笑」


「……!」


 ジロジロと、ウチに向けられる無遠慮な視線が心底気持悪い。


屋上ここって立ち入り禁止って知ってる? よくないなぁ……」


「よく見ると、どっちも結構可愛いじゃん♪」


 タバコを投げ捨て、ゆっくりとこちらへ近づいてくる男二人。

 ちよちよは顔を完全に青ざめさせ、唇をわなわなと震えさせている。

 マズい……。

 何でちよちよを連れてきちゃったんだろう。

 こんな思いをさせるはずは……。


「いやあの、すいません。間違えました。……行こ、ちよちよ」


「うっ、あっ……!」


 その場から離脱するべく、ちよちよの手を引く――――――。

 ……でも。


「っ!!」


「別に逃げなくてもよくねー?」


 ヤンキーの片割れに、手首を掴まれる。


「いや、ちょっと、離してっ……!」


 コイツら、マジで気持ち悪い……!

 掴まれた所から鳥肌が立ち、全身がその熱さを急激に失っていく。


「いやっ、やめてっ……ください……!!」


「いいじゃん。ちょっと遊んでいこーよ」


「ちよちよっ……!」


 ちよちよはもう一人に両手首を握られ、そのまま羽交い絞めに。

 いい加減にしろよ……!!

 人が黙っていれば……!!!


「止めろってば!!」


「……反抗的じゃん? 調教しがいがあるっての……!!」


 っ……!

 仕方ない。

 話が通じない猿共に、少しビビってもらうだけ。

 そう自分を言い聞かせ、ポケットに入った護符に手を触れた――――――その時だった。

















「あれ~? 先客じゃん。お取込み中?」


「いや、どう見ても嫌がってるだろ……」




 ――――――!

 背後から聞こえる声。



「……んだよ、おめーら」


「いや、それはこっちのセリフなんですけど~」


 ゆっくりと目線を声の方へ向けると、そこには――――――。


 一人はピアスを開けに開け、髪をツンツンに逆立てたヤンキーに負けじ劣らずの格好。

 そして、もう一人は――――――。



「っ……!!」


 失われていた体温が、また体に戻ってくる。


 茶色がかった髪の毛は少しだけ癖があるのか、あっちこっちに跳ねてて可愛い。

 透き通るような色白の肌は、太陽の下でも高い透明度を誇っている。


「みや……も……!!」


 っ――――――!!

 うわ……、どうしよう……!!!

 どうしようどうしようどうしよう。

 胸が苦しいんだけどっ……!!!!

 自分でも分かりやすいほどに顔が火照っている。



 そして、を象徴するのはその、――――――瞳。


 その瞳には、今はウチが写っていて……。

 ってことは、彼とウチ、目がバッチシ合っちゃってるわけで……!!!




「この状況どうする? ……


「どうするって……。困ってるみたいだから、助けよう」




 目の前には、――――――ウチのが立っていた。












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