第39話『世界はただ、二人だけのために』



『ハハハハッハハハッ!!!!!!』


 眼前の霊球は、大気との摩擦によりプラズマを発しながら更に巨大化―――――。

 その霊力――――、それは先生の、「服部楓」の存在を掛けた最後の一撃に他ならない。


《敵さんは、全てを出し切るつもりだ。中途半端は必要ない。

 ……こちらも、全開だ》


「……あぁ!」


 全てを、捧げろ。

 俺ならできる。

 後は、何も考えなくて良い。

 今はただ、ありったけを―――――。


 周囲に爆発的に溢れ出す漆黒。

 もっと、もっとだ。

 こんなもんじゃ

 先生はもっと色んなものを、全てを、込めている。

 陰陽師としての誇り、自身の願い、渇望する未来―――――。


 負けるわけにはいかない。

 もっと込めろ。

 死んでいった人たちの無念。

 まだ生きている人たちの祈り。

 それを、全て。

 込めろ―――――。




 ***




《……やるじゃん》


 暴力的なまでの漆黒の霊力。

 それが新都全体を包む闇と同調し、その明度を更に下げる。

 ただ暗く、ただ昏く――――。

 新太の周囲には多くの生体光子が集中し、奴の式神を媒介にして絶え間なく周囲へと溢れ出している。


《……俺も負けてられないな》



 ***



「……!!」


 俺の霊力に呼応するかの如く、仁の霊力出力が上がる。

 眩く光り輝く仁の霊力。

 明るくて、それにとても―――――温かい。

 そばにいるだけで、とても心強い。

 二人なら、何でもできる。

 そう思わせてくれるような。


《新太》


「……何?」


片付いたら、またあそこに連れてけ》


「……あそこ?」


《~~~~!》


 仁はバツの悪そうな表情を浮かべ、そして《その……ゲームとか……色々あるところだよ》と静かに呟いた。


 ……ラウゼのことか?

 終始面白くなさそうな顔をしていたような気がするけど、もしかして気に入ってたりするのだろうか。


「……いいよ。

 また、で行こう」






 先生、仁、そして俺自身の霊力が。


 臨界を越える――――。




『キエろオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』




《「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」》



 俺は剣を、仁は拳を振りかぶり。


 白と黒の霊力が混ざり合い。




 そして―――――。









 ***












 視界に、一筋の光が差し込む。

 それが朝日だと言うことに、少し遅れて気付いた。

 目線をゆっくりと上の方にスライドさせると、崩れた瓦礫の間を縫うように太陽が上ってきているのが分かった。


「……ここまでか」


 俺の目の前には、瓦礫の隙間にある誰の者ともつかない人の頭部。

 そこから掠れた声が漏れていた。


「……先生」


 他の肉片は、既に形状崩壊した。

 目の前の頭部も、端の方から塵と化し、消滅し始めている。


「楓」


 俺の背後から、唐突に響く声。

 振り向くと、そこには支部長が立っていた。


「……遅すぎる到着だな」


「君の造った式神が、複雑すぎるのが悪い」


「ふふっ……、仮にも清桜会の上に立つ男が、何を甘えたことを」


 支部長はゆっくりと先生の方へと歩み寄る。


「……何で、こんなことを」


「死人に口なし……。私は、もう逝く。


 ……宮本」


「……はい」


、陰陽師に」


「……!」


 そして、先生は。

 形状崩壊し、微粒子となって、夜明けの新都の空に消えてゆく。

 陽の光を受けて、キラキラと輝くもの。

 それは砂塵か、生体光子か、はたまた―――――。


「新太」


「……?」


新都このまちを、住民を、そして―――――楓を。

 ……救ってくれてありがとう」


 そう言い残すと、支部長は医療班と立ち替わりに、向こうへと歩いて行ってしまった。

 後に残されたのは、―――――俺一人。



「……」


 太陽が眩しくて、思わず眼を細めた。




 長かった一日が終わり、





 そしてまた、新たな一日が始まる―――――。





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