第26話『魑魅魍魎、嗤うは数多の死。』
10:42
新都北区材木町にて悪霊三体の現界を観測、負傷者多数確認。
現界悪霊を乙種と認定、清桜会東京本部は陰陽師数名での修祓を下命。
約五分後、清桜会第十一部隊陰陽師現着、対象と交戦開始。
10:49
新都全域にて乙種の同時多発的現界を観測。
これを受け清桜会東京本部は新都支部へ指揮系統を完全委譲。
同時刻、新都支部による夜間の
一般人の屋内への避難の遵守及び屋外への一切の他出を禁ずる。
~~~
10:56
霊的災害特別措置法第八項により、新都を霊災第一種隔離区域に指定。
泉堂学園所属特例隊員九名及び泉堂学園三年既出撃者四十七名による戦闘配備。
泉堂学園二年特例隊員「古賀京香」、清桜会指定第一厳戒対象「宮本新太」両名に本部待機が下命。
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[四月二十四日に発生した人為的霊災に関する報告書より一部抜粋]
***
[4月24日(水) 新都南区センタースクエア前 11:34]
公道では横転している車や、接触事故を起こしたと思われる炎と煙に包まれている車が何台も確認できる。
電車や地下鉄も今回の影響を受け、当面完全運休。
公共交通機関は完全に麻痺している。
よって……徒歩しか移動手段がない現状。
本部への最短距離である、南区センタースクエアを抜けるルートで移動をしていた。
ここを抜ければ、後は中央区の清桜会本部まで一本道。
走れば十五分くらいで到着するだろう、とそう算段を立てていた
しかし。
事態はそう簡単にはことを運ばせてくれない。
―――――ここは地獄だ。
「あああああぁっっぁぁぁぁっぁぁっぁ」
「やめてっ!!! やめてええええああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「あ……ははは……。嘘だろ、なんだよ、これ」
生きながらにして頭から悪霊に囓られ、咀嚼される人。
人型の悪霊に捕まり、抵抗空しく絞殺されている人。
そして―――――その光景を受け入れられず、ただ傍観に徹している人。
「夢だよ……夢夢。こんなのありえねーもん。だってさ……、いやありえないって……」
『菴輔□縺雁燕縲∵ョコ縺吶◇?』
スーツ姿の男性はフラフラと悪霊に自ら近づいてゆき、そして。
「ほら……何ともない、なんっ」
―――――頭を潰された。
人の頭部が潰れる音と主に鮮血が飛び散り、コンクリートをドス黒く汚す。
視界の中で
抵抗する力の無い人々を追い詰め、そして慈悲もなく殺す。
眼前で展開されているのは……紛れもない「虐殺」。
悲鳴、嬌声、断末魔。ヒト、悪霊、もはやどちらか判別がつかないほど、ありとあらゆる絶叫が耳をつんざく。
「うっ、くぅ……」
「何やってるの、新太! 走るわよ!!」
胃の奥から迫り上がってくる酸っぱいモノを喉で叩き落とし、目の前で刀剣型の式神を起動させている京香を視界で捉える。
そして―――――。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
京香は今しがた一般人を襲うべく手を伸ばした悪霊の腕を斬り落とす。
そしてそのまま悪霊の脳天に式神を突き刺し、形象崩壊。
――――――しかし。
「クソ……!!」
「縺輔≠縺輔≠縲∵ョコ縺励■繧?≧縺橸ス橸ス橸ス」
次から次へと、どこからともなく湧き出る悪霊達。
陰陽師の数が圧倒的に不足しているのか、視界の中で動いている黒の狩衣姿はほんの僅か。
それが意味するのは、悪霊の同時多発的現界。
清桜会のキャパを遥かに超える規模の大現界に他ならない。
一ヵ所に戦力を集中することができないが故の、この被害か……、
このまま一体一体まともに取り合っていたら、中央区への本部には一生辿り着けない。
「『燐火』なら……!」
「……いや、ダメだ京香! 一般人もいる!!
……それに、悪霊を一掃したところで、奴らは際限なく現界してる……!」
「くっ……!」
確かに、広大な燃焼範囲を誇る『燐火』であれば、この程度の相手なら瞬時に消し炭にできるだろう。
……でもそれじゃダメだ。
これは言わば、終わりの見えない戦闘。
イタズラに霊力を消費してしまうのは、その後の戦闘に大きな影響を及ぼす。
「それなら……、起動!!
霊力が
「ちょっと、多すぎるわね……!」
京香の持つ弓に掛けられているのは、数多の矢。
「……っ!!」
弓を力一杯に引き絞り、そして―――――。
数多の矢が、放たれた。
その狙いはセンタースクエア前に現界している
天羽々矢は「屈折」の発現事象を持つ。それは言わば自動追尾の性質と言い換えてもいい。
被弾を避けるためには「矢」そのものを破壊しなければならない。
しかし、そんな思考を悪霊が持ち合わせているはずもなく、放たれた矢は―――――。
「―――――!」
ほぼ同時に着弾。
一瞬視界が白く染まり、あちこちで小規模の爆発が確認する。
身体の一部を欠損し、そのまま粒子になって消失する個体もいれば、欠損箇所を再生させ既に動き出している個体も確認できる。
しかし。
眼前で巻き起こっている虐殺は、留まる気配を知らない。
助けを求めている人が目の前にいる……、それなのに。
「新太、今のうちに!」
「嫌、ダメだっ! まだ襲われている人がっ……!!」
今俺が持ち合わせているのは、『虎徹』のみ。
しかし無いよりはマシだ……!
『起動!
type『虎「―――――止めとけよ」
式神を起動させようとした転瞬。
視界の届く範囲全ての悪霊が
そして、ツカツカとこちらに歩いてくる一人の人影。
その姿は全身黒に包まれ、いつもの狐面をしている。
……そうだ。
こんな芸当ができるのは……!
「仁……!」
「アンタなんでこんなとこにっ……!?」
すると仁は狐面を取り、めんどくさそうな表情を浮かべる。
「あの
クソメガネって……、まさか支部長……?
「それじゃ、
「いや、ちょっと待ってくれ、仁! まだ悪霊が……! あっ……」
すると仁は俺の制服の襟を掴み、自分と同じ目線へと無理矢理引き下げた。
「―――――一応言っとく。
これはもう
その声音は、
「誰かを助けられる奴ってのは、
「……!」
「他人に守られている
狐面の奥で、仁の瞳が鈍い黒色を放っている。
もう何も言うな、そう仁の瞳は言っているような気がした。
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