第18話『三人+一匹の土曜日』



[4月20日(土) 泉堂学園最寄りのカフェ『musico』 13:36]



「アタシの方が絶対多く祓った!!」


「いや、俺だね」


「じゃあ、何体祓った!? 言ってみなさいよ!!」


「……いちいちそんな数覚えてない」


 そう言いながら、仁は自分のコーラをズルズルと音を立てて飲む。


「~~~~~~~~!! ちょっと新太! アンタいつも近くで見てるでしょ!! どっちが多く祓ってる!?」


 えっと……。


「ごめん、カウントしてない……」


「はあああああぁぁぁ!? 

『仁と私、どっちが優秀な陰陽師か決める戦い』なんだから、アンタも貢献しなさいよ!!」


 あれ……、そうだっけ。

 当初の目的と違うような……。

 と言うか、欲を言うなら俺を挟んで言い合いをしないで欲しい。

 眼前には、とにかく自分の功労を主張するべく躍起になっている京香と適当にあしらっている仁の姿があった。


 ―――――支部長から命じられた『囮作戦』を開始して早四日が経過した。

 しかし、新都や俺自体に大きな変化はない。

 まぁ、強いて言うなら悪霊はここ数日でその数を減らしているらしい。良い傾向だ。

 かと言って、俺を狙っている第三者も現れていない現状。

 事態はある意味膠着している状況と言ってもいいと思う。

 何なら、京香は「どちらが悪霊を祓っているか」に重点を置き、仁と勝負まがいのことを始めている始末。


「……と言うか、今日俺は何で呼び出されたんだ? まだ夜まで時間はあるんだけど」


 ゴロゴロとコーラを飲み干し、仁は京香にジト目を向ける。

 そう。

 俺と仁はほんの一時間ほど前、この学園最寄りのカフェに京香から呼び出しを食らった。

 本日は土曜にして学園は休み。

 故に、俺もこうして私服で集合している次第だ。

 呼び出した張本人である京香も何やらヒラヒラしたトップスにタイトなジーンズという出で立ち。

 仁は……。

 他に服とか持っていないのかな……?

 普段通りの全身真っ黒な格好だった。


「今日は土曜じゃない」


「……まぁ、世間的にはそうだけど」


「ってことは、休日よね? 新太」


「はい、そうです」


「……だったら、遊ぶしかないじゃない!!!」


 ドンッ!という擬音が似合うほど堂々と、京香は声高らかにそう言い放った。


「「……」」


 しばしの静寂が訪れる―――――。


《ふむ、京香嬢。それは妙案だな》


 静寂を破ったのは、ボフンという音を立てて俺らのテーブルのそばに出現した一匹の狐、もとい式神。

 室内であるはずなのに、その真っ白な体は仄かに発光し、並々ならぬ神性を感じさせる。


《最近我々は働き過ぎている。京香嬢も恐らくそれを危惧しての提案だと思うぞ、仁》


「さっすが天ね! 私の言いたかったことまんま!!」


 ほんとかよ……。

 ってか、コイツら事前に裏で口裏とか合わせていたんじゃないか?

 互いに目線を合わせ、深く頷き合っている二人(正しくは一人と一匹)を見ていると、疑念が沸々と。

 何でそんなに仲良いんだよ……。


 ……天と京香は気付いたら自己紹介を済ませ仲良くなっていた。

 一応京香も特別オリジナルを扱う陰陽師と言うことで意気投合したようだった。

 別に仲が良くなるのは悪いことじゃないけど……。


「……(ジト目)」


 それに反比例するかのように仁の機嫌が悪くなるのは勘弁して欲しい。


「あと、これは別件なんだけど」


 そう言いながら、京香は自分のポケットからスマホを取り出し、ヒラヒラと振った。


「さっき、支部長から連絡があったの。私達の今日の出撃は見合わせ、らしいわ」


「そうなんだ……。特段成果がなかったからかな」


「何でもかんでも上手くいくとは限らないでしょ。でも、悪霊の数も減少傾向に突入してきたみたいだし……」


 ここ数日、敵をおびき出すという名目の元、三人で行動していた。

 一応それなりに悪霊を祓うことはできたけど、当初の目的は達成されてないわけで……。


「まぁ、支部長には支部長の考えがあるんじゃない? ……でも、これで今日一日思いっきり遊べるわね!!」


 巡り巡ってまた、再度同じ話題にたどり着く。


「……遊ぶって一体、何するんだよ京香」


「それはね……」





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