第15話『乖離する記憶』






「出撃命令が……出たから……ですけど」


 そう。

 答えは単純。

 俺宛に出撃命令が下された。

 特例隊員でもない、実践で式神も使ったことのないにだ。

 それに一番困惑したのは他でもない、俺自身。


「――――あの晩、私達は君に


 ―――――……は?


「いや、だって……俺は確かに……」


「聞かせて欲しい、君はその命令を下された?」


 誰から……?

 あの夜、狩衣と式神を支給されて……。

 部隊長と話もした。

 いや、待て。

 あれ……?

 部隊長って、……?

 冷や汗が背中を伝う。


「誰から……」





 ――――俺、誰からその命令を受けたんだっけ……?


 思い出そうとすればするほど、記憶に靄がかかるように思い出せなくなってゆく。

 あの晩のことが。

 分からなくなってゆく。


「その様子だと、覚えてないみたいだね」


「っ……!」


「一種の軽い洗脳状態だったんだろう。

 ……君の出撃を、裏で手引きしていた者がいる」


「清桜会の中に、ですか……?」


「京香……」


「誰かが新太を殺そうとしてたって、ことですか?」


 彼女には珍しく、興奮した様子で支部長に食ってかかっている。


「ずっと訳が分からなかったんです。

 新太を出撃させたこと。

 上の命令だと思って口出ししなかったんですけど」


「……京香、いいよ」


「よくない。 

 誰かが新太を殺そうとしたのよ!? 

 多分、清桜会の誰かが……!」


「……」


 式神もろくに使えない。

 俺が劣等生であることは直属の機関である清桜会が当然把握しているだろう。

 そんな俺が悪霊と戦闘をして無事でいられるはずがない。

 よく考えてみると当たり前のことだ。

 清桜会が俺に出撃を命じるはずが――――。



 ――――恐らく、そなたは消されかけたのだと思うぞ。


「っ……!!」


 不意に。

 昨日、仁の式神である天に言われた言葉を思い出す。

 

 あの頭部のない悪霊。

 そして、「俺」という対象を前にした全開の殺気。

 あの悪霊も、「俺」を殺すためにあてがわれたものだとしたら……?

 あくまでも憶測の範疇を出ない話。

 しかし――――。

 背中を冷たいものが伝った。


「常に、何者かが君の命を狙っているものと思っていた方がいいね」


 支部長の言葉もどこか遠い世界の話のような、実感を伴わない話として俺の耳へと入ってくる。


「……それでだ、『狐』君。

 そして、京香」


「……はい」


「……」


「君たちに、新太君を守ってもらいたいと思う。

 最近の悪霊の大量発生といい、その原因究明に我々も心血を注いでいる。

 ……でもね、それと新太君のことが僕には関係しているようでならないんだ」


「私は、構いませんけど……」


 チラリと京香が一瞥した先の人物。

『狐』つまりは、黛仁。


「……俺はお前達の組織の人間じゃない。

 従って、その命令に従う義務はない」


「そうです! 

 こんな得体の知れない奴の助けなんてなくても、私一人で充分です!!」


「……様々な要素を考慮してに判断した。

 まず、京香。

 君の力は既に一般隊員のそれを越えている。

 学生の身でありながら、既に部隊を率いてもよいのではないか、という話も出ている」


「それは……ありがとうございます」


「そして……『狐』君。

 君は新太君にずいぶん執心しているね?」


「……」


「昨日のこともある。

 君には君なりの思惑もあるのだろうが……、新太君に危害を加える確率は低いと判断した」


「……ずいぶん、安直な判断だな。

 ぽっと出の、しかも得体の知れない『俺』を戦力の一つとして数え上げるなんて」


「そこはもう……「勘」だね」


が、勘を頼りにするなんてな」


 不敵な笑みを浮かべながら支部長を睨め回す仁。


「君は『旧型』……だよね? 

 でも旧型とはいえ、陰陽師であることに変わりはない。

 別に仲間に加われと言っているわけじゃない。

 ただ、その現実離れした力を貸して欲しいんだ」


「……」


 目の前で展開されている話が、全て「俺」を中心に回っていた。

 しかし、渦中にいるはずの俺はどこか現実味のない、はるか上空から俯瞰しているような、そんな疎外感があった。


「……この話を受けることで、俺に何のメリットがある?」


「事が済んだら……、君に全面的に協力しよう」


「……」


「平たく言えば、私達にできることならする。

 として守ろう」


「法に触れない範囲でお願いしたいけどね」と支部長は付け加え、改めて仁に向き直った。


「どうかな?」


「……」


 俺は、交換条件を出された仁が、口の端で静かに笑うのを見逃さなかった。






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