第6話『美女と野獣』
「これでよし。目立った外傷の処置は終了」
「いっつ……」
バンバンと背中を叩かれ、今しがた受けた傷に響く。
欲を言うともっと優しくして欲しい……。
「しっかし、宮本君も怪我ばっかりだね~」
「ホントですね……、情けないです」
腰掛けていたベッドから、処置をしてくれた養護教諭の方を向いた。
この高平先生は、パッと見俺らとそこまで歳が変わらない。
少し、いやかなり若い見た目をしている先生だ。
腰ほどまである長いグレーがかった髪を巻きに巻き、メイクは当然の如くバッチバチ。
白衣の下は流行りの色を取り入れたビジカジ……とでも言うのだろうか。
とにかく、この人が街を歩いていたら思わず注目しちゃうだろうな、というくらいには派手な見た目をしている。
「……歩けるかな?」
「えっと……、うん。大丈夫そうです。ありがとうございます」
その場で軽く体を動かし、大きな異常がないことを確認。
……やっぱり高平先生の腕は確かだ。
去年から何度もお世話になってるけど、後に響かない正確な処置。
いや、毎回の授業で怪我をしている俺も俺なんだけど。
「痛みもそこまで残っていないです。……式神ですか?」
「いいや、別に。普通のテーピングとか色々グルグルーってやっただけ」
簡単そうに言うけど、やっぱりこの人はかなり優秀なんだろう。
これで清桜会の
「ほんと気をつけなよ~? 骨折だったんでしょ? 前の怪我」
「あぁ……はい。
「三週間で良く戻って来れたよ」
「それは現代陰陽道……もとい現代医療の
タハハ……と今だからこそ笑えるが、当時は半ば臨死体験のような有様だった。
誇張無しで、アレこそがまさしく「死にかけ」と言える状態だったと思う。
「……それじゃ、実習も終わってる頃だと思うので……、そろそろ教室に戻ります」
「あんまり激しく動くと、また痛むからね。自主練もほどほどに」
「……はい。ありがとうございました」
ドアに手をかけながら、高平先生と言葉を交し廊下に出ようと力を入れたときだった。
違和感。
それはどこか気持ち悪さを感じる、既に
「……!」
手にかけたドアの隙間から感じる視線。
栗色がかった二つの眼球は真っ直ぐに俺を見据えている。
「……虎、何やってんの」
俺も負けじとジト目で応戦。
すると、その瞳の主はやがて痺れを切らしたかのように、「いや~、心配したぜぇ~~」とか何とか言いながら医務室へと入ってきた。
一見すると完全なチンピラ。
両耳にこれでもかと言うほどピアスを開け、校則ガン無視の着崩された制服。
今日も今日とて髪をワックスでガッチガチに固め、重力を無視したかのようにツンツンに逆立てている。
「新太が怪我したっつーからさ、心配で心配で……来ちゃった!」
「嘘つけ、高平先生に会いに来ただけだろ」
「……いや、違うって~。マジでお前のこと心配でさ~。……あっ、
「……蔦林君。せめて「先生」をつけてよ」
当の高平先生は虎の姿を見るなり、ため息交じりに頭を抱えた。
―――――このいかにも軽薄そうな男は、
この学園で、京香の次くらいに俺のことを昔から知っている男だ。
チンピラチックな見た目に反してちゃんと陰陽科の生徒であり、成績もなかなか優秀だというのだから、本当に人は見かけによらない。
「……俺が怪我したってどこで聞いたんだ?」
虎のクラスは隣。
合同授業で無い限り、それを知る手段はないとは思うんだけど。
「お前のクラスの奴らが騒いでてさ。「
「……」
「古賀がまた騒いでたぜ~? 服部に止められてたけどな」
「……そうか」
確かに京香であれば、事情を知れば一目散に医務室に来るはず。
それがないってことは……やっぱり先生、だよな。
むしろ感謝の念を伝えたい。
京香には……今は会いたくない。
クラスの様子は予想通りと言えば予想通りだ。
虎に悪気はない。
事実をそのまま伝えてくれただけだ。
実力主義の陰陽科においては、明確な
この学園では座学と実習、その両方の成績を加味され生徒一人一人がランク付けされる。
最下位。
つまりは泉堂学園陰陽科二年の内―――――80位/80人。
具体的な評価項目こそ明かされていない。
しかし。
どれだけ座学で点が取れようが……所詮は現場に出ることを見越されている陰陽科。
「新太も気にすんなよ~? 俺らはまだ二年なんだからさ~」
虎の言葉の真意は分かる。
あと二年もあるから大丈夫だ、と。
しかし、逆に言えばあと
「……そうだな」
京香ほどではないけど、虎も俺のことを影で庇ってくれている。
それは充分に理解している。
でも……。
「……教室に戻ります。高平先生、ありがとうございました」
時間的に既に昼休憩に入っている時間。
さすがに何も食べずに午後を迎えるのは避けたい。
俺は軽く頭を下げ、少しだけ肌寒い廊下へと歩みを進めた。
「え~、もう行くのかよ……。美空ちゃん、じゃあね~~」
今日はいつものように高平先生を口説くつもりは本当に無いようで、虎も俺の後ろからそそくさと着いてくる。
「また怪我したらいつでもおいでよ~」
そんな声が後ろから聞こえた。
……本当、もう怪我は勘弁だ。
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