最終章
私はこれからいくつもの文章を書き上げるだろう、そして我々は文章の中でのみ、王になり、実業家になり、世界一の金持ちになり、鳥になり、獅子になり、概念になり、預言者になり、批評家になれる。現実で口からつらつらと弁を垂れるものたちはぶっているだけに過ぎない、口からは本当の本音は覗けないのである。然し、文章の中であれば我々は真にその者たちへとなれるのだ、何故ならその文章の世界には他人がいないからである。(共著などは別であるが)そしてたとえ文章に書いてあることが嘘だとしてもその本の中では本当のことで作者の考えたことに変わりは無いのである。
読者諸君は前の章を見てきっと「それがどうしたんだ、読んでる俺たちがいるじゃないか!」と思ったでしょう、然しそれがこの文章の世界に影響を及ぼすのでしょうか?いいえ、それはあり得ません、ましてやその批評のもとになるのは貴方自身の記憶であり貴方の主観であり、全く別の次元に私とあなた方は存在しているのです。そして私のような著者に直接会って話したところで今ここで文章を書いている私はもういません、べつに本体が死んだわけではありませんよ、人の考えというのは簡単に変わってしまうのです。勿論、心の奥深く見えないところにある一本のこの体と魂をつなげる芯を変えることはできません、ですが考えは別です、考えというのは波打つ砂浜の波の跡に木の棒で書いた言葉のような物です。感情や記憶、経験という波によって逐一消されてしまいます、勿論気候や昼夜も激しく変わり…そして真っ新になった濡れた砂に私は再度文字を書くのです。
そしてもうすでにお気づきのように私の語尾はこの間に全くもって変わってしまっています。それはやはりまた波打ち際に書かれた文字のようにいつの間にかリセットされてしまったのでしょう、然し私はあえてこの違いを残しておきます。あるひとはこの語尾の変化に気づいて「なんだこの文章は!?けしからん!下手くそめ!」と叫ぶでしょう。然しながら私の心や本質を理解していないからそう言えるのでしょう、かと言って私もその本質を述べる資格を持っている訳ではないことも承知です、ですが少なくとも読者の皆さんが私のことをどういう人物であるかということを私が初めて世に出すこの文章で知ってもらいたかった、只其れだけです。
論高口底 Old Boy 老青年 @old_boy
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