第6話
小十郎はいきなり無言で立ち止まったかと思うと、後ろを振り返った。その目は爛と光っている。まるで、これから軍立場(いくさたてば)に立とうかというような風情だ。
「失礼ながら、非礼を承知で申し上げる!」
張り上げた声を聞き、その場に居合わせた者が全員足を止め、渠を見やった。敵意、嫌悪、困惑――そして小十郎の驚愕、それぞれがそれぞれの感情を面(おもて)に刷いた。
「若様を次期当主に、とは当主であらせられる左京大夫様の御意志。次期当主であらせられる若様をよりにもよって、“化生のように醜い”? 武家の女性の風上にも置けぬ発言ではございませんか!」
傅役(もりやく)に抜擢されたばかりの小十郎の齢は十九、その立場など吹けば飛ぶようなものだ。
だが、渠は臆することなく“奥羽の鬼姫”を鋭く見すえる。
その火を噴くような覇気を前に、さしもの烈女も鼻白む様子を見せた。
「妾(わらわ)は梵天丸のことを言った憶えはない。傅役風情が無礼であろう」
そう言い残し、義姫は憤然とその場を去っていく。
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