第5話

   第一章


   一


 粒子の細かい霧が晴れるように、周囲に満ちていた闇が薄れていった。

 ――現われたのは、米沢城(よねざわじょう)の一角だ。

 虎哉宗乙(こさいそういつ)の学文の教えを受けて帰ってきたところだった、そんな当たり前のことを思い出す梵天丸(ぼんてんまる)――渠(かれ)は幼いころの伊達右近衛権少将(うこんえごんのしょうしょう)政宗だった。

 廊下を歩いていると、“奥羽の鬼姫”と称されることもある義姫(よしひめ)が前から歩いてきた。

 男勝りで大柄な女性(にょしょう)である母――それでも、梵天丸にとっては母親だ。

 だが、義姫にとってはもはや違う。断じて違う。

「ほんに、まるで化生のように醜い……」

 侍女をしたがえた義姫は、すれ違いざまにそんな言葉を忌々しげに吐いた。

 わざと聞こえるように告げたのか、思わず口から出てしまったのか判然としない。

 どちらにしろ、母上……――梵天丸の心は傷ついた。

 幼いころに疱瘡にかかったせいで右目を失明し、患部が母の言う通りに醜く腫れあがっている。

 そのせいで内向的な心根の持ち主となり、梵天丸は抗議の言葉を口にするなど思いもよらなかった。

 ――が、つき従っていた片倉小十郎景綱(かたくらこじゅうろうかげつな)は違ったらしい。

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