第2話

「それは重畳」

 その一言を最期に、渠の体から力が抜けた。

 重くのしかかる家臣の体――その重みは、維新入道にとって神の宿り巨木をも上回るものだ。第二次関ヶ原役(せきがはらのえき)にまたひとり勇士の命が、葉から落ちた朝露のごとく散った。

「大儀であった」

 維新入道は、家臣の体を丁重に脇へとのけ立ち上がる。

 ――渠が茫然自失の状態に陥っている間も、死闘はつづいていた。血が時ならぬ雨のごとく大地を濡らし、旱魃と疫病がはやった後のように死骸が累々と転がる。

 鉄炮騎馬隊が距離を詰めるや、刀槍をふるって残りの者へ襲いかかったのだ。

 殺気を感じて、自然と維新入道の体は動く。

 抜刀一閃――槍のけら首を切断した。

 一撃を送ってきたのは、島津左衛門督歳久だ。

 悪鬼の形相の渠は、穂先を失った槍の柄を動きを止めずに猛然とふるった。

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