戦国対十字戦線(時代小説新人賞最終選考落選歴あり)

牛馬走

第1話

序章


 ……発砲音が大気をゆるがす。

 が、やはり島津維新入道は動けなかった。

「御屋形様!」

 刹那、衝撃が渠の体を打ち据えた。

 維新入道の視界に、中馬大蔵允重方(ちゅうまんおおくらのじょうしげかた)の武骨な顔が大写しになる。身分などというものにまったく目をくれない不躾者だが、維新がいっとう好いている家臣のひとりだ。

 ――そんな渠が、維新入道を落馬させた。

 むろん、中馬大蔵允が返り忠などするはずもない。

 となれば、答えはひとつ。

 主のためだ――その身を投げ出し、中馬大蔵允は維新入道を救ったのだ。

「……大事はありませぬか?」

 急激に顔を蒼褪めさせながら、渠はたずねる。

 維新入道は、やっと正気にもどり顎を引いた――そんな渠は、己が急に“濡れた”ことに気づいた。

 まなざしをさげると、中馬大蔵允の腹のあたりに大きな傷が口を開き大量の血を吐き出しているのが目に見える。

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