田舎のカフェの不思議譚
「ところで、当店の謎ティーのお味はいかがでしたか?」
ユヅキが起き上がりながら微笑みを浮かべて、俺は苦笑いする。
「メニューだったのかよ。淹れたの俺ですが……ただ、あの配分は絶妙だと思いました」
「ふふ、何よりです」
「ユヅキさんは、お客さんみんなに逆にお茶を淹れさせちゃったりするんですか?」
「いえ、薫君が薫君だったからです。あとは──まあ、淹れてくれそうだったし?」
テヘ。という感じに笑われて、がっくりと両肩を落とした。
こいついっぺん清水の舞台から突き落としてみようか……いや、こいつはなんか這い上がって来そうで怖いからいいか。
浮き沈みしている俺を横目に、ユヅキはさらさらと言葉を繋いだ。
「今回のお茶はですね、橋渡しのお茶と申しまして……一時だけ、まだあちらへ逝って間もない魂と、こちら側の生きた人間とを繋ぎやすくする効能があります。体内で消化されたら数時間で効能がなくなる、砂時計のようなお茶なんですよ。……ちなみに、僕が最初に飲んでいたのは滋養のお茶です」
「滋養はまあユヅキさんを見てれば必要なのはわかりますが……。そうか、不思議なお茶だったんですね。なんだか成分が違法でないか怖くなってきたような」
「大丈夫大丈夫、合法ですよ。まあ、作りかたは僕しか知りませんし、合法です」
「それはつまり……い、いや、な、なんでもないデス」
うろたえながら後退りした俺の腕を、ユヅキは、尋常ではない圧力を加えながら握った。
滋養いらないんじゃ?とか思ったのは内緒だ。
「薫君」
ドスのきいた声と凍てつく眼差しで、ユヅキは俺の顔を真っ直ぐに眺める。
「君の希望は、どこにある?」
その問いに、俺は一瞬はっとして、それから自分の胸のあたりに手を当てた。
「──ここに、あるみたいでした」
ユヅキは一瞬だけ天使のような笑みを浮かべ、再び、何を考えているのかわからない謎の笑みに戻す。
「それは、何よりです」
先ほどのお茶の味の時より、穏やかな響き。
今までが強烈すぎて、不思議なユヅキを見たような気がした。
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