田舎のカフェの不思議譚
*
「すみませーん」
インターホンが見当たらず、どこから見てもカフェに見えない小さな民家の引き戸に手をかけた。
よく見れば、引き戸の指をかける部分に、マジックで、小さく小さく「花の町の真ん中カフェ」と書いてある。
穴場、とはこういうものなのだろうか?
いや、違うはずだ。
穴場があるとしたら、これはもう、穴場を通り越している。
人に「来ないでくれ」と言っているような雰囲気だ。
「ふぁーい?」
諦めて帰ろうとした数分後、奥から何かしら音がして、一人の男性が顔を出す。
「やぁ、久々のお客様ですか。面倒くさいですね!」
白い歯を見せて爽やかに笑った男性は、営業スマイルは及第点でも、店主として色々失格であろう。
俺はどう反応していいのかわからず、ただ、はい、とだけ答えておいた。
「そこ、段差があるんで一応気をつけて下さい。こっちの部屋でお話を伺いましょう。メニュー表は特にありませんが、お水とお水とお水、どちらが良いですか?」
「全部水かよ……っと、いえ、すみません。では、水をお願いします」
水に指摘をすれば何やら冷ややかな眼光に焼かれたため、丁寧語に戻す。
希望……これが、希望……?
俺は、今後の展開が不安でたまらなくなっていた。
見た目爽やか青年なカフェ店主らしき人の、一瞬一瞬にちらりと見せる眼光は一般人のものとは思えなかった。
この田舎町はとても潤っていると聞くが、まさか町ぐるみで観光客を──?
そっち系なのか、水とか言いながらぼったくりなのか、あるいは──
ああ、俺の人生がここで終わったらどうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます