お花の町の真ん中カフェ~田舎のカフェの不思議譚~

水無月 秋穂

田舎のカフェの不思議譚

田舎のカフェの不思議譚



 見渡す限り、畑、畑、畑。

 もしくは田んぼ、田んぼ、田んぼ。

 ところにより、花畑。


 お花の町、というからには、それは綺麗な花が咲き乱れているのだと思っていた。

 なんせ、知る人ぞ知る「希望の町」なのだから。


 けど、俺の予想は見事に裏切られた。

 花畑と言えば花畑に見えなくもない、小さな花壇が点々と。

 それらにはそれぞれ町内会管理のマークが描かれており、ちょうど隅の一ヶ所では、首にタオルを巻いたおじいさんが剪定をしていたところだった。


「えー……」


 風景に若干不安を覚えつつも、嬉々として肩にかついでいたボストンバックが、ポスンと音を立てて歩道に落とされる。


「希望……? ここが……?」


 望みがあるのならと、都会から四時間以上かけて電車に揺られてきたというのに、のどか……というか、静かすぎる……というか。


「おや、希望──もしかしたら、あんたもカフェーに来たんかい?」


 通りすがりの、畑仕事帰りであろうおばあさんに声をかけられ、俺は思わず瞳を見開いた。

 まさか、こんな場所に、本当に――


「えっ!? 本当に……ここに、例のカフェが?」


「あぁ、あるよ。そこの突き当たりの柵をひょいっとまたいで、向こうに見える小屋がそうさ。入り口に小さな看板があっから」


 確かに、畑の柵らしきものの向こうに、簡素な納屋のような小屋がある。

 おばあさん曰く、柵はただの小動物よけだから通っても問題ないらしい。


「ありがとうございます! やっと──」


 礼をしながら言葉を濁したまま、俺は小屋に向かって駆け出した。

 再び、ボストンバックを肩に背負い、期待に胸を弾ませて。


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