第4話 僕は人を殺してみようと思った。
先月まで高校に通っていた。他に楽しみを見出したわけでは無かったけど、常識にしばられた毎日を送ることが無性に辛かった。
親には何度も人と違う道を進むのは難しいと言われたが、この春自主退学をして変わった世界は両親の喧嘩を生み、制約は消えたが面倒は増えた。しかし高校生ではない十七歳は自由に使えるお金は少しはあった。
高校時代にバイトしていたファストフード店のバイト代。バイトも辞めた。昼間にゲームをしているうちに少しずつ飽きて、バイト代を消費するのが自分の首を絞めていると思って、外に出るようになった。
家には本がたくさんあったから、外で読んだが、知識欲は退学をした時点で枯渇したらしい。興味を早い時期に失っていった。
睡眠はニートだから十分、食欲は家にあるものをてきとうに、問題は性欲である。特に困らないのだが、昔感じたエクスタシーになつかしさを感じた。
顔は自分でも分かるほど老けていて、店舗に行って、アダルトコーナーに入ることも出来て、借りることも出来た。
ところが、その店舗にあるどの作品を見ても興奮しなかった。試しに寝るのを辞めた。飯も抜いた。
先に眠くて腹が減った。性欲で生殖をする必要はないが、僕は日に日にこの性欲というものに関心が向かった。僕の使えるお金には限界があった。ニュースで快楽犯と見た。
そうだ。人を殺してみよう。自分の焦がれた欲求は殺人で満たすことが出来るのではないかと思ったのだ。
普段、暇なのでどこの誰がいいかを考えた。街を歩いていると花屋にせかせかと動く、小さな体つきのポニーテールの女がいた。
様々な候補の中から楽そうだったので、これにしよう。
花屋の向かいに喫茶店があって、観察していると十八時に店じまいをして、帰宅するようだ。
僕にはこの辺りの土地勘はあるので、どこの道を通って駅に行くか大体検討はつく。
一度昼、試しに花屋を訪れた。本当にその店員しかいないか。誰か呼ばれないかを確認するかを調べる方法があった。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか」
最近声を発することは無かったから、少しかすれた。何か言わないとここで捕まるのは困る。
「母に」
家に帰って来なくなった母に。
花屋の店員は様々な提案をしたが、てきとうにごまかして店を出た。喫茶店に入ると少し怪しいかもしれない。元アルバイト先とは違う駅前のファストフード店で十八時前まで待った。
今から僕は殺人をする。高揚感が出てきて、懐かしい欲求を満たせるのを期待した。
案の定、花屋からあの店員が出て来た。シャッターを閉めて歩き始め、決行は細い道に入ってからと決めていた。横道も狭い。車が出て来ることは無いだろう。
妊娠しているともっといい。罪は重い方がいい。殺すという手段を取ったのに懲役刑では代償が少なすぎる。首を絞めて殺す。人の香りを最近感じていない。どんな香りがするのだろうか。
行こうと思っているのに腕が動かない。後少し、少しで手が触れる。足元がアスファルト舗装なのになぜかつまずいた。首を絞めようとしたのに肩を押してしまった。クラクションの音がした方を見ると車が来ていた。何でこの日に限って、何で。
女性をかばった形になってしまった。都合の悪いことに車は銀行強盗の帰りだったという。
人を殺そうとして表彰され、女性にはお礼を言われ交際をすることとなり、僕は少しずつ働き始めて、女性と結婚した。
「パパ、どうしてママと結婚したの」
「運命のいたずらだよ」
まさか殺そうとしたなんて言えるわけがない。
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