第26話 またやっちゃったの?
「あっ、お前!!」
「え?」
「お前だろ! お城を空に浮かばせたのって!」
「そ、そうです、きっと……」
「どうするんだよ!! お前のせいで避難させた家族も兵士もあの中にいるままなんだぞ!」
やっぱりというか、お城は未だに上空に浮いたままになっている。しかもこの問題はわたしのペナルティが一切働かないことだ。
「あっ――じゃあ、トレニア帝国のお城は今日から――」
これは後日に分かること。
それは、トレニア帝国の城が浮遊城として有名になる瞬間だった。
数日が経った。エドナはリル家にお世話になる条件として、セリアとリズの情報を定期的にリルと男の子に教えることになった。
「おかげさまでリズも笑顔を見せるようになったし、セリアも明るくなりましたわ。エドナさんとの出会いがとっても良かったのね。冒険者は続けられないと聞きましたけれど、エドナさんさえ良ければあの子たちもまた喜ぶでしょうね」
エドナに対し、リルは何度もお礼を述べていた。むしろリズとセリアを引き合わせてくれた家でもあるので、エドナにとってリルの家が第二の故郷と呼べるものとなった。
そしてエドナはとうとう、浮遊城に呼び出されるのだった。
「……そなたがわが城を永遠の浮遊城とした賢者か?」
トレニア帝国の王はこれまで見てきた王とは違って、かなり気品があって威厳がもの凄く感じられるものだった。
そのせいか、エドナも緊張が止まらなくなっている。本来ならエドナの隣にはセリアやリズ、ライラといったパーティーも呼ばれることになるが、浮遊城という特性のせいで彼女たちはここに来ることが叶わなかった。
エドナとしては心細い結果となってしまったが、ここでの処置がどうなるのか、まずはそれだけに集中することにした。
「は、はい。エドナ・ランバートと言います」
「よくもやってくれたものだな」
やはり怒らせた。その言葉を聞いてエドナは何かしらの処罰が下されると信じていた。
ところが。
「ご、ごめんなさい……」
エドナが素直に謝ると、急に風向きが変わったのである。
「よい。むしろトレニア帝国の防衛力が上がったわ! ククク、浮遊城とは面白いものよの。浮いているだけではあるが、地上の魔物を一切寄せ付けないのだからな。愉快なことよ。よってエドナ・ランバート! お礼に褒美を取らそう。何を望む?」
えっ? まさかの処罰無し?
城を勝手に浮かせて決まった人しか来られない城になってしまったのに。
なんて心が広い王様なんだろう。
それなら初めから望みは決まっている。エドナはそう思いながら、王に向かってその言葉を口にする。
「わたしをトレニア帝国の魔法学園に入学させてください!」
普通であれば、いくら魔物を撃退したといっても引き換えに数々の問題を起こした張本人には褒美ではなく、むしろ処罰を喰らわせるもの。
それがトレニア帝国の王は望む褒美を取らせると言い放った。それならばとエドナが望んだのは、ランバート村で転生し問題児として育ってきたエドナを魔法学園に入学させる。
それが叶うとすれば、問題であっても賢者の通う魔法学園としてトレニア帝国は歴史を作ることになる――とエドナは思っていた。
そして今、その思いが叶おうとしている。
拍手が鳴りやまない中、水泡に包まれた生徒たちが下の方に降りて来る。
そこまでは良かったが。
「エドナさん、あの~そろそろ出たいんですけど……」
「僕もここから出たいです」
「エドナさん。どうやって出ればいいのか教えて?」
水泡に包まれた生徒たちが一斉にエドナに訊いてきた。ところがエドナは脱出することまでは考えていなかった。
「えーと、拳で突き破ったり、針で空気を入れれば開くんじゃないかなぁと」
そんなに頑丈なものでもないし、そもそも水泡なんだから簡単に出れるよね。
そんなことを気楽に考えていたエドナだったが、外側から針を刺そうが中から思いきり拳を突き出そうが、先生たちが魔法を繰り出そうが一切のことが無効化されてしまったのである。
「あ、あれ、おかしいな……」
エドナの戸惑いに、生徒たちもしきりに不満の声を上げるが。
「いいよ、もう。このまま生活するよ」
「私も我慢する……」
「知らない間に出れるかもしれないし、そもそもこんな経験無いからいいや」
――といった感じでエドナの失敗は許された。しかしこの問題はそう簡単に解ける者では無かったこと知るのは、水泡の生徒たちがテストを受けるその時までである。
「エドナさ~ん! あら? エドナさんはまた欠席?」
「先生! エドナさんなら、ギルドに呼ばれていますよ。きっとまた何か起こしたんじゃないでしょうか」
「……そうですね。彼女のことですし、そうでしょう」
エドナが起こし続ける問題は、魔法学園だけでなくギルド、浮遊城といった帝国全土にまで広まることになるのであった。
「ごめんなさ~い!! 今すぐに治しますから~」
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