第13話 王都を防衛しちゃいます!

「ジッタさん、ありがと~!! あのまま森を抜け出せなかったらどうしようかなぁって思ってたの」

「ニャハ。転移でしか来れない森だからね、どんなに迷っても出られることはないんだよ~」

「やっぱりそうだったんだ。本当に助かったよ~」


 エドナのお礼を聞きながら、あのままにしとけば空間破壊されかねないんじゃ? などとジッタは思っていた。


 エドナを見つけたジッタはエドナを宿に預け、冒険者パーティーの彼女たちを探し歩くと決めていた。しかしエドナもついて行くと言ってきたので一緒に歩くことに。


「王都ってたくさんの人がいるんだね~! ジッタさんも普段は王都で暮らしているの?」

「ニャフ。そうですよ。わたしは普段は宿で寝泊まりしているんです。ポーターとして時々、冒険者さんの依頼を受けたりするんですよ~」

「荷物を持ち歩くのは大変じゃないの?」

「空間収納というスキルがあるので苦労はないんですよ」

「ほえ~すごい~!」


 ライラたちを探す為、中央広場の辺りを歩いていた時だった。ビービー、といった警報音が突然王都全体に鳴り響いたのだ。


「え? ええ? なになに?」

「――これは……何故警報が? あ……騎士団がいなくなったから……?」


 警報音が鳴り響いたと同時に通行人はすぐさま家や建物の中に引っ込み、広場を歩いているのはエドナとジッタだけになった。


 するとどこからかは不明ながらも、剣を振るう音が聞こえてくる。


「誰かが戦ってるような音が聞こえるよ?」

「……恐らく、冒険者パーティーのみなさんだと思います」

「近くにいるように聞こえるのに見えないよ~。どこにいるの」


 エドナが周りを見ながら首を左右に振る中、ジッタは耳をピクピクとさせて音の行方を探り始めた。


「行きましょう! 音の出所がつかめました!」

「うんっ!」


 広場を抜け、ジッタと共にたどり着いた場所は街道へ抜ける王門裏付近だった。そこではライラたちの他、王門を守る守備兵が剣を振るって押し寄せる魔物に対していた。


「ライラ~!!」


 ライラたちの姿を見つけたエドナは、離れたところから声を張り上げライラたちに自分が来たことを気づかせた。

 

「エドナ……? いや、気のせいか? しかしここでくたばるわけにはいかないね! あの子が来る前に王都に侵入してきた魔物を全部倒しちゃおう!」

「よそ見は禁物ですわ! あの子が来てしまったらわたくしたちも大変なことになりますもの。せめて見える範囲の魔物だけでも片付けておかないと」

「分かってる! リズ! 治癒魔法は兵士に!」

「もうやってる」


 ライラたちが魔物と戦う最中、エドナはジッタの言葉どおりに行動することを決めて、外に通じるかくし道を駆けている。


「どうして外に行くの?」

「魔物がこれ以上侵入して来るのを防ぐ為です。魔物の多くは、王国につながるレセンガ峡谷から来ているからですよ」


 ジッタの話では、アルボルド王国は猫王が代行した頃から魔物が国内に侵入することが増えて周期的に警報が鳴ることが頻発しているらしい。


 それというのもアルボルド王国周辺は魔物集落がいくつかあり、以前に増して襲撃してくるようになったのだとか。


 ……とはいえ、通常時は騎士団だけで撃退が可能で、王都内に魔物の群れが押し寄せることはほとんど無いようだ。


 ジッタの案内で外へ出ると、王門裏に向かって山の方から多数の魔物が押し寄せているのが見える。単体で見るとゴブリンやオークといった獣人も混ざっているが、多くはまとまりのない獣ばかりでボスのような魔物は見られない。


 な~んだ、もっとすごいのが来てるかと思ったのに。


「ジッタさん。押し寄せてる魔物をきれいさっぱりにやっつけちゃっていいんですかっ?」

「ニャ!? え、全部?」

「もちろんですっ! 行きますよ~!!」

「――いいえ、エドナさんが全てやらなくても騎士団が来ますので少し様子を見てからで……あっ!?」


 やっと魔物と戦える。その気持ちが抑えきれず、エドナはジッタが止めようとしているのを振り切って魔物の群れに突っ込んだ。


「いっくよぉぉぉぉぉ!!」

 あ~ようやくだよ。ライラたちの心配も分かるし守ってくれていたのも分かるけど、やっぱり我慢は良くないと思うんだ。ストレス発散ついでに目に見える魔物を掃除しないとね。


「ギ、ギギ……?」

「ニンゲン、クル……オマエラ、ムキテンカンシロ!!!」


 ……などと知性のあるゴブリンが呼びかけた次の瞬間。


「フロストぉぉぉぉぉ!!! それから、ファイヤーーの全体攻撃ぃぃぃぃぃぃ」


 エドナから放たれたのは、頭上と地上から突然現れた冷気の塊だ。そうかと思えば、その直後にはどこにも逃げられないほど大きな炎が魔物たちを包み出した。


 ギャギャギャ!?

 言葉を使えない魔物たちが訳も分からずパニック状態になっている中。


「コ、コオリ……ウゴケナイ…………ヤ、ヤケル……ニゲラレナイ」

「モドレ、オマエラ……モド――アァァァァァァ!!!」


 ジッタが王門裏入口に近づこうとしたその時。


 それは一瞬の出来事だった。羽根つきの魔物やゴブリン、オーク、オーガといった魔物の群れが凍ったかと思えば、まばたきした瞬間に一瞬にして全て燃え尽きていた光景だった。


「――なっ!? な、何が?」


 ジッタが追い付いてきたことに気づいたエドナは、戸惑っている彼女に対しすぐに頭を深々と下げた。


「ジッタさぁ~ん……ごめんなさぁあぁい!!」

「ええ? ど、どうして謝っているんですか? 魔物は全てやっつけたんですよね?」

「あ、あのね……最初に氷属性を出して魔物を凍らせたんだけど~その、そこを見てもらえる~?」


 エドナが指したところに目をやると、そこには完全に閉ざされてしまった王門が出現していた。


「ヒェッ……な、何でですか? だって、魔物のほとんどは氷の後に炎で焼き尽くされていましたよね? それなのにどうして王門が氷の門に変わり果てちゃったんですか?」


 ジッタが驚くのも無理は無かった。


 エドナの魔法攻撃が不安定かつ不確定なものだったことに加え、氷属性や炎属性の攻撃はあくまで動くものに限ってのもの。


 初めから魔物だけに気持ちがいっていたことも関係して、元々そこにある王門といった生命感の無い無機質な構造物には属性は重ならない――という、一種のペナルティのようなものが生じてしまったからだった。


「うんとね、わたしの魔法って一方通行みたいな感じでね、だからその……王門の氷に炎は効かないんだ~でも凍ったおかげで、魔物がまた来ても入ることは無くなると思うよ!」


 はっきり言えばエドナの魔法によって、王都に新たな問題を引き起こしたも同然である。


「そ、そんな~……魔物の侵入が無くなるといっても、わたしはもちろん騎士たちの出入りも出来なくなっちゃうんですよ~? 何とかならないんですか~……」

「溶かすことは出来ないけど、壊すことなら出来るかなぁ」

「こ、壊す!? ……そうなると、どのくらいの範囲が壊れることになりますか?」

「やってみないと分からないんですけど~この一帯じゃないかなぁ?」

「そ、そうですよね……う~ん」


 エドナの無遠慮魔法によって王都の裏にある王門は完全に防衛された。しかし、魔物の侵入が出来なくなるどころか、人の立ち入りも出来なくなったのは王都の人間からすれば大問題。


 王門裏を守る兵や騎士も出入りが出来なくなって、誰も近付くことが出来ないことを意味する。


「……ニャホホ。エドナさんの力ってこういうことだったんですね……」

「ほぇ?」

「強すぎる力ゆえの問題があるなんて、そう上手く出来ていないし簡単にはいかないってことなのかもしれませんね~」


 ジッタががっくりと肩を落としていたと同時頃。


 王門裏口付近で魔物を狩っていたライラたちにも、エドナによる問題が引き起こされていた。


「こ、これは……外で何が起きたっていうのさ!?」


 ついさっきまで大斧を振るい、兵士の代わりに剣を手にして斬りかかっていたライラの前には、消し炭だけが残っている。


 後方でサポートしていたセリア、リズたちの眼前には氷の塊がいくつも転がっていて溶けずにそのままの状態になっているだけでなく、王門を含む兵の詰所といったところ全てが立ち入りの出来ない状態と化していた。


「急に魔物が凍っていったかと思えば炎に包まれて焼失するなんて……。普通じゃないことは確かですわね。それに王門周辺の異常な冷気はどうしようもありませんわ」

「……たぶん、エドナだと思う」


 セリアとリズの考えは一致していて、まだ理解が追い付かないライラの元に駆け寄ることに。


「えぇ!? エドナがこの状態を作り出したぁ?」

「間違いありませんわ。あの子の魔力を向こう側、つまり王門の外側で一瞬だけ感じたのですけれど、恐らく氷属性で魔物を凍らせたはずですわ」

「でも、その後に炎が魔物を焼き尽くした。だけど王門だけ凍ったまま」


 アドーラ姉妹は冷静な判断でエドナがしたことを話している。


「はは……これが本物の賢者の力ってやつかな。でも、これだと王都の門が一か所だけ使えなくなるっていう問題があるんじゃ? 何にしてもあの子をどうやって見守ればいいっていうのさ……」


 そんな二人の話に対し、ライラはエドナに対する恐れをまたしても再発させることになるのだった。 

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