life.6 パーティー

 冒険者達には二つのタイプが存在する。誰とも組まずに一人で活動を行うソロと、二人以上でチームを組んで活動するパーティーだ。特に後者はRPGならお馴染みの要素だろう。

 因みにユーマはマオと行動を共にしているが、パーティー登録はまだ行っていないので扱いはソロである。つまりボッチのままだ。


 さて、ソロとパーティー、対極的な両者だがそのどちらにもメリット・デメリットが付随する。


 前者は自分の都合だけで依頼を選べる他、ギルドに納める仲介料を除けば報酬も全額受け取れる。

 その代償として依頼遂行中の事故や窮地は即死に繋がる。助けてくれる仲間がいないからだ。


 パーティーはその逆と考えれば分かりやすい。

 全滅しない限りは仲間同士で助け合えるし、依頼中に死ぬ可能性は低くなる。

 ただし受注依頼はメンバー内で話し合う必要があり、報酬も山分けとなる。


「どちらを選ぶかは個人によりますけど、駆け出しの鋼鉄階級にいる間は、パーティーを組むのが賢明だと思いまーす」

「そうですか、分かりました。マオ、俺とパーティーを組んでくれ」

「魔王たるボクをスカウトしてくれるとはね。いいだろう、喜んで軍門に加わるよ。二人で素晴らしい世界を築こうか」

「公開プロポーズとは大胆ですねー。バズりそうだし動画撮っとこ」

「してねえよ! それと勝手に撮るな!」


 ひと悶着ありながら、二人は無事にパーティー結成の手続きを完了した。その名も″スローライフ″。

 魔王と手を組んだにしては些か覇気に欠けた名前だが、スローライフとは言い換えれば争いのない平穏な生活だ。平和を目指す彼らには相応しいパーティー名だろう。


 そんなこんなで誕生した″スローライフ″の初仕事は、またも最下位階級の薬草採集である。

 何故なら、冒険者個人に階級が設けられているように、パーティーにもまた階級制度が設定されており、結成初日の″スローライフ″は最下位の鋼鉄階級からのスタートだからだ。よって受注可能な依頼も限定されている。

 駆け出しのユーマは兎も角、魔王にして白金階級のマオを含めても尚、最下位扱いである点になんとも世知辛いところがある。


「よーし、ボクらの記念すべき門出だ。気を引き締めていこう!」

「やけにテンション高いな。気持ちは分かるが」


 嬉しそうだからいいや、とユーマは納得した。


▼life.6 パーティー▼


「これで……どうだっ!!」

「グェェェェェ……」

「順調だね。少し慣れてきたんじゃない?」

「荒事に慣れても嬉しくねえけどな。戦わなくて済むのが一番だ」


 倒れ伏した薬草を見下ろしながら、ユーマは油断なく周囲を見渡す。辺りには薬草ヘッドと頭を落とされた身体が無造作に転がっていた。これで付近の薬草は殆ど片付けただろう。

 とはいえ、別の地域にはまだまだ野生の薬草が生息している他、より強力な他の魔物も存在する。無論、危険度と報酬は比例の関係だ。


「この辺りの薬草はもう残ってないと思うけど、どうする? もっと活動範囲を広げてみるかい?」

「なにか心当たりがあるのか?」

「薬草の特徴は雑食且つ繁殖力旺盛であること。だから亜種も含めて世界中のあらゆる地域に生息しているのさ。例えばあの野山も候補に入れれば、活動範囲に困ることはないと思うよ」

「そうか。なら明日にでも探索してみるか」

「おやおや、音をあげるには少しばかり早いんじゃないかな? 勇者くん」

「疲れたんだよ」


 どれだけ武器が強力でも、彼自身は元一般人の社畜に過ぎない。魔物の相手をするにも限界がある。


「ま、薬草も刈り尽くしたことだし、さっさと後片付けをして帰ろうか。昼食を済ませたら……腹ごなしにデートと洒落込もう♡」

「ったく、そんなに元気なら手伝ってくれてもよかっただろうに」

「ボクが手伝ったらレベル上げに繋がらないよ。チート無双系に浸りたいなら兎も角、この程度は自力で乗り越え──」

「どうした?」


 その表情を剣呑なものへと一変させて、「静かに」とマオは短く言った。

 さては落胆させてしまったか、とユーマが思ったのも束の間、彼女の視線の先に映るであろう茂みが音を立てて揺らいだのを見て、表情の意味を悟る。

 疲労も忘れてスゴイソードを握った瞬間、音の正体がゆっくりと姿を現した。


 見たところ身長はユーマと同じ約170cm、ただし筋肉は明らかに相手の方が発達していて、腕や太腿が丸太のように分厚く膨らんでいる。人間の肉体をミンチにするぐらいは朝飯前だろう。

 だが何よりも特徴的であるのは、頭部が水色の結晶体そのものである点だ。

 眼も鼻も何もかも削ぎ落とされたつるんとした無機質なフェイスは筋肉質で生物的な肉体とあまりにもアンバランスで、いっそ異なる二種の生物を無理矢理に縫い付けたと説明された方がまだ納得できるだろう。総じて醜悪な姿をした怪物だ。


「……ポーションだよ」


 そんな正真正銘の異形を指して、マオがその名を口にした。


「薬草の上位亜種の一つだ。見た目は類似点が多いけど、同列に扱うべきじゃない」

「……いやいや、百歩譲って薬草はいいとして、ラムネ瓶みたいな頭の化け物がなんで平然と歩いてるんだよ!? 呼吸とかどうやってんだ!」


 焦燥からか、それとも驚愕し過ぎて一周回ったが故の冷静さか。ユーマは早口で捲し立てたが、着目すべきはそこではない。


「おかしい。ポーションがこの付近一帯に生息している筈はないんだ。餌を求めてハレムライヒから流れてきたのか、それとも人為的なものか。実に興味深い」

「悠長だな、おい!?」


 マオは、肩を竦めた。


「だって力だけは強いけど、あれには致命的に知性が足りない。そうだね……駆け出し冒険者のキミには荷が重たいって程度かな」

「おい、ひょっとしてマオが戦うのか」

「そんな顔をしないでくれたまえよ。凶悪な魔物の駆除も魔王の責務なのさ。それにボクもかっこいいところを見せたいからね」


 焦るユーマを尻目に、マオは跳躍すると、悠然とポーションの眼前に降り立った。


「……さあ、魔王の裁きをくれてやる」

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