14
「お医者さんはどう言ってたの?」
持って来た林檎を器用にナイフで剥きながら、おばさんが尋ねた。
「とりあえず何日か入院して、その後は栄養指導を受けるんだって」
「そう……治りそうなの?」
「治すよ。私の場合は完全な拒食症とは違うとも言われたし。それに、もう迷惑なんてかけたくないし……」
「ほんとにね! もう二度とやめて欲しいわ、こんな思いさせるの!」
「ごめんなさい……」
小さくなって謝るとおばさんが声を上げて笑った。
「あはは、ごめんごめん! 秋ちゃんったらもう!」
「えっ、なんで私?」
ひとしきり笑った後、不意におばさんが呟いた。
「まさかとは思ったのよねぇ……」
「え? 何が?」
なんのことだろう。前から思っていたけど、おばさんはいつも話が唐突すぎると思う。
「この前私が電話したとき、元気にしてる? って聞いたら、秋ちゃん、『大丈夫』って答えたでしょ?『うん』でも『元気だよ』でもなくて、『大丈夫』って」
そうだったかな。そこまでは覚えてない。私は戸惑いながらおばさんの言葉を静かに待った。
「雅也がね……言ってたのよ、ずっと前に」
「えっ、何を……?」
「んー……なんかねぇ、『秋が無意識に〝大丈夫〟って言ったときは大丈夫じゃないときだから、気を付けてくれな』だってさ。まさかとは思ったんだけど……もっと早く来るべきだったわ」
そんな癖、自分でも気が付かなかった。だから雅也はいつも、そばにいて欲しいときには必ず隣にいてくれたんだ。
「あの子、本当に秋ちゃんのこと想ってたのねぇ……。そこまでよく見てるなんて、私もびっくりよ」
思わず涙がこぼれた。慌てて顔を手で隠す。
「愛されてるのね、あきちゃん。ちょっと妬いちゃうわあ~」
「もう、やめてよおばさん」
本当に何一つ、不安になったり心配したりする必要はなかったんだな。雅也は本当に私を想ってくれていたのに。
──いや、想ってくれている、のかな……今でも。
そう思うと心の底から幸せな気持ちが押し寄せてきて、なんだかとてもあたたかくなった。まるでプレゼントをもう一つもらったみたいで。もう一粒、涙がこぼれた。
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