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 あれから、私は部屋から一歩も出なくなった。何をする気も起きなくて、一日を床の上に横たわったまま過ごした。

 藤村君は毎日、私の部屋へ来ては、

「言わないといけないことがあるんだ。ちゃんと顔を見て話したい」

 と言って、ドアポストに手紙を差し入れ去って行った。

 私は彼の言葉には答えなかったし、手紙も受け取らずそのままにしていた。日を追うごとに身体から力が抜けていく感覚が増していった。


 雨の音で目が覚めた。

 数時間前まで晴れていた空は、凄い勢いで泣き崩れていた。

 暑さで開けっ放しにしていた窓からびしゃびしゃと雨が入って床を濡らしている。

(閉めないと……)

 重たい頭を持ち上げ、力の入らない身体でふらふらと窓へ近寄って手を伸ばすと、銀のサッシを掴んだ瞬間、視界が廻った。景色がぐにゃりと歪んで、傾いた目の前に雨に濡れて灰色になったベランダの地面が飛び込んできた。色んな物を倒しながら地面にぶつかったひどい音が遠く聞こえた。

 薄れゆく意識の中、誰かが私を呼んだ気がした。


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