11
あれから、私は部屋から一歩も出なくなった。何をする気も起きなくて、一日を床の上に横たわったまま過ごした。
藤村君は毎日、私の部屋へ来ては、
「言わないといけないことがあるんだ。ちゃんと顔を見て話したい」
と言って、ドアポストに手紙を差し入れ去って行った。
私は彼の言葉には答えなかったし、手紙も受け取らずそのままにしていた。日を追うごとに身体から力が抜けていく感覚が増していった。
雨の音で目が覚めた。
数時間前まで晴れていた空は、凄い勢いで泣き崩れていた。
暑さで開けっ放しにしていた窓からびしゃびしゃと雨が入って床を濡らしている。
(閉めないと……)
重たい頭を持ち上げ、力の入らない身体でふらふらと窓へ近寄って手を伸ばすと、銀のサッシを掴んだ瞬間、視界が廻った。景色がぐにゃりと歪んで、傾いた目の前に雨に濡れて灰色になったベランダの地面が飛び込んできた。色んな物を倒しながら地面にぶつかったひどい音が遠く聞こえた。
薄れゆく意識の中、誰かが私を呼んだ気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます