7
繰り返し見る夢がある。
気が付けば留学先で、雅也と電話で話す私がいる。
「ねぇ……雅也、最近連絡少ないよね」
『え? そんなことねぇだろ』
「ウソだ。だって返すのもどんどん遅くなってるじゃん……」
『それはまあ、海外だからじゃん?』
「……何それ」
『あーもう、そんなに心配すんなって! 俺、最近忙しいんだよ。誕生日にはちゃんと電話するからさ、な?』
「……ほんとに?」
『おう! ちゃんとそっちの時間に合わせて掛けてやるよ』
「分かった。約束だからね」
『おう、約束な』
そう、約束した。あの時確かに雅也は私に約束した。会えない代わりに必ず電話をすると。
急に夢の中の場面が切りかわって、朝になった。0時ちょうどにくるはずだった雅也からの電話。待ち続けて疲れて眠ってしまった私が目を覚ました。
握りしめたままのスマートフォン。画面を開いても着信はない。
沸き上がる怒りと悲しみで涙が滲む。震える指で電話を掛けようとして、悔しくなってやめた。
「なんで……?」
鬱陶しいなら怒ればいい。もう好きじゃないならそう言ってくれればいい。それなのに、連絡が取れたときはいつもどおり振る舞う雅也の態度に私は余計混乱した。
突然、着信音が鳴り響いた。画面には、『雅也』の文字。
一瞬強張った。そして、意を決したようにスマートフォンを持ち直す私。そんな自分を見て私は反射的に止めようとした。でも、足が動かない。私は目の前の自分に向かって声を上げた。
──やめて、取らないで、だめ!
しかし叫びは虚しく画面を見つめたままの私には届かなかった。それでも私は声を上げ続ける。
──お願いだから……!
受話ボタンを押そうと指が動く。
──やめて……!
そして、通話が開始された。
──もうやめて……っ!
ハッと目が覚めた。
朝だ。カーテンの隙間から漏れた光が部屋に差している。
(ああ、そうだ)
心で呟いて、私は安堵の息を吐いた。
何度も見るあの夢は、いつも同じ場面に差し掛かったところで目が覚める。例え夢でも思い出したくなくて、結末を知ってるはずなのにそれでも毎回見たくないと叫んでしまう。
時計を見ると十一時半だった。もうそろそろ、隣の部屋を訪ねる時間になる。でも昨日の後で、のこのこ訪ねてもいいのかな……。それはあまりにも失礼なんじゃないだろうか。もう来なくていいなんて言われたらどうしよう……。
とめどなく溢れる考えに気落ちして、昨夜の自分の言動を改めて悔やんだ。藤村君はあんなに心配して親切にしてくれたのに。それに対して私はなんて仕打ちをしてしまったんだろう。
(とりあえず謝らなきゃ……)
思い立てばもう後は行動のみで、私は隣の彼の部屋へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます