2
決して多くはない荷物を手早く片づけていると、着いたのが遅かったからか外はもう真っ暗になっていた。鏡のようになったカーテンのない窓ガラスには、自分の姿が映っている。夜の中からこちらを見つめる私は、疲れた顔をして、少しやつれていた。
私は急いで段ボール箱から掃除用に持ってきた新聞紙を取り出して、ガムテープで窓に貼った。正直、もう見たくなかった。
トランクからタオルケットを引っ張り出し、明かりを消して横になる。けれどそう簡単には寝つけるはずもなく、頭の中では数時間前の出来事が再生されていく。
『ねえ、そういえばこの辺でしょ?』
バスに揺られながらぼうっと俯いていると、前席に座る中学生ぐらいの女の子が窓の外を指して言った。不意に顔を上げたことを、瞬時に悔やんだ。
ヒュッと喉が鳴る。思わず胸の辺りの服を掴んだ。
『ニュースでやってた飲酒運転の事故』
『うわっ、ほんとだ。花束置かれてるじゃん、ヤバ……』
目が、離せなかった。ガードレールの下に供えられたいくつかの花束。
事故が起きた場所は聞かなかった。もし通ったとしても、場所さえ知らなければ何も気にならないと思ったのに。
「もう、なんでよ……」
大きなエンジン音を立て動き出したバスの中、迂回する直前に見えたのは、コスモスの花束だった。見間違うはずがない。あれは確かにコスモスだった。亡くなった人へ手向けるのに、わざわざ選ぶ花だろうか。そんな事を考えている内に、私はいつの間にか眠りについていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます