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 決して多くはない荷物を手早く片づけていると、着いたのが遅かったからか外はもう真っ暗になっていた。鏡のようになったカーテンのない窓ガラスには、自分の姿が映っている。夜の中からこちらを見つめる私は、疲れた顔をして、少しやつれていた。

 私は急いで段ボール箱から掃除用に持ってきた新聞紙を取り出して、ガムテープで窓に貼った。正直、もう見たくなかった。

 トランクからタオルケットを引っ張り出し、明かりを消して横になる。けれどそう簡単には寝つけるはずもなく、頭の中では数時間前の出来事が再生されていく。


『ねえ、そういえばこの辺でしょ?』

 バスに揺られながらぼうっと俯いていると、前席に座る中学生ぐらいの女の子が窓の外を指して言った。不意に顔を上げたことを、瞬時に悔やんだ。

 ヒュッと喉が鳴る。思わず胸の辺りの服を掴んだ。

『ニュースでやってた飲酒運転の事故』

『うわっ、ほんとだ。花束置かれてるじゃん、ヤバ……』

 目が、離せなかった。ガードレールの下に供えられたいくつかの花束。

 事故が起きた場所は聞かなかった。もし通ったとしても、場所さえ知らなければ何も気にならないと思ったのに。

「もう、なんでよ……」

 大きなエンジン音を立て動き出したバスの中、迂回する直前に見えたのは、コスモスの花束だった。見間違うはずがない。あれは確かにコスモスだった。亡くなった人へ手向けるのに、わざわざ選ぶ花だろうか。そんな事を考えている内に、私はいつの間にか眠りについていた。

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