第2話 リッシュ子爵領

 リッシュ子爵領に入ってから村をいくつか通ったが警戒されているような感じがする。俺はアネットに言う。

 「私たち警戒されていませんか?」「アニーもそう感じる。貴族の馬車だから警戒されているのかもしれないわね。」

リッシュ子爵がどんな人物か知らないが農民には慕われていないような気がする。アネットが俺に言う。

 「ゲレオン・ド・リッシュ子爵の噂を知っている。」「ネティー、聞いたことないわ。」

 「準男爵の令嬢が誘拐されたんだけど、その子をゲレオン・ド・リッシュ子爵が買ったと調べられたことがあるのよ。」「と言うことは、証拠はなかったのですね。」

 「そうだけど、少女が好きだと言われているわ。」「近寄りたくありませんね。」

 「そうね。リッシュ子爵領は早めに通り過ぎましょう。」

俺はジニアス商会の件を思い出す。アニタも同じことを思い出しているのか顔がこわばっている。アネットはそれに気づいたようで

 「アニー、アニタ、顔が怖いわよ。どうかしたの。」「私とアニタは人さらいに関わったことがあるのです。」

 「何危ないことをしているの。」「アニタはさらわれ、私は罠にはめられました。かかわった商会はつぶしましたが貴族たちから圧力がかかり調査は中断しました。」

 「よく無事だったわね。」「私もアニタも強いですから。」

馬車は街に入る。俺は街の人たちがどことなく暗く感じる。俺たちは良さそうな宿を見つけて泊ることにする。しかし、俺たちが少女3人とわかると宿の主人は嫌な顔をして宿泊を断る。

 俺はとうとう5件目で自分の名前を使う。

 「私はアニエス・ド・ボドリヤールです。伯爵家の令嬢の宿泊を断るなら相応の理由があるのでしょうね。」「アニエス様ですか、あの天使と悪魔の・・・」

 「どうしますか。」「アニエス様とアニタ様なら断りません。領主は美少女を見つけると館へ連れて行ってしまうのです。」

 「少女はどうなるのですか。」「分かりません。館から出てこないのです。」

 「分かりました。泊めていただき、ありがとうございます。」「もったいないです。」

これで村の警戒と街の人々の暗さの理由がわかる。しかし、この問題にかかわることはできない。アネットを危険に巻き込めないし、旅の途中なのだ。

 俺たちが1階の食堂で食事を終えるとゲレオンの使いの者が宿に現れる。そして、俺たちに招待状を渡して去って行く。

 招待状には、俺とアニタ、アネットの名前が書かれている。宿の主人が言う。

 「これは罠です。行ってはいけません。」「行かないと子爵の顔をつぶすことになるわ。」

アネットが言う通り、行くしかない。俺たちは子爵邸に行くことにする。

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