第4話 商人ギルドのマスター

 俺たちは、ベルントの案内で商人ギルドへ行く。ベルントが受付で話すと受付嬢が奥へ走って行く。しばらくすると受付嬢が戻ってきてベルントに合図する。

 「アニエス様、私について来てください。」

ベルントは受付カウンターの中に入り、奥へ行くと2階に上がる階段がある。彼は階段を上がると2階の一番奥の部屋を4回ノックする。「どうぞ」と扉の向こうから声がする。

 ベルントは扉を開けて入ると部屋の主に言う。

 「忙しいところ済まない。」「ベルントさんがボドリヤール伯爵の御令嬢を連れてきたとあっては仕方ありません。」

部屋の主は、俺を値踏みするような目で見てから言う。

 「これは可愛らしいお嬢さんだ。商人ギルドのマスターをしていますアルベルト・ベッカーです。」「アニエス・ド・ボドリヤールです。よろしくお願いします。」

 「ボドリヤール伯爵の御令嬢でもベルントさんの商会でなければ会いませんでした。アニエス様はこの時間を有用なものにしていただけるのでしょうか。」「はい、大切な話です。」

 「どのような話ですか。」「商人ギルドは飢饉に備えていますか。」

 「この十数年飢饉は起きていないことは知っていますか。」「はい、良い品種に変わり飢饉は起きなくなったと聞いております。」

 「では、備える必要はないのではないのですか。」「自然は甘くはありません。今の品種でも耐えられない災害が起これば、食糧事情はどうなるでしょうか。」

 「確かにそうなれば我々は商売どころではなくなります。」「では、ギルドの方で保存食の備蓄をしてください。」

 「アニエス様の話は災害が起きた時のことです。備蓄には管理費がかかります。今の状況では管理費は払えませんな。」「では1年間、備蓄をしてください。」

 「何も起きなければどうしますか。」「そうですね、1年間商人ギルドの通行税を免除します。それで起きた時はどうしますか。」

 「今後アニエス様の言われる通り備蓄を続けましょう。」「それだけですか。」

 「アニエス様は私たちの信頼を勝ち取ります。私たちはアニエス様の後ろ盾になります。」「分かりました。契約書を作りますか。」「はい。」

ベルントが顔色を変える。

 「アニエス様、ジルベール様が黙っていませんよ。」「父にも食料の備蓄を頼むつもりです。」

 「我々が備蓄をすれば足りるのではないのですか。」「食料の値段は上がりますから、貧しい人に分け与えるのです。」

 「それは教会の仕事です。アニエス様が気にすることでは・・・」「私の街では誰も死なせません。」

 「それは理想です。」「では努力して実現しましょう。」

アルベルトが俺に言う。

 「アニエス様は、大物なのか、ただの夢見人なのかどちらかですな。」「からかっているのですか。」

 「褒めているのです。まだ5歳なのに末恐ろしいです。」「褒めていると思っておきましょう。」

今日の契約は父を怒らせるであろう。そのうえで貧しい人のために食料を備蓄するのだ。父は何と言うのだろう。

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