第16話 バレーヌ伯邸の夜
俺たちは風呂に入った後、ファヴィアンに夕食に招かれる。彼は俺に言う。
「アニエス嬢の護衛たちは別の部屋で歓待しているから心配しないでくれ。」「ファヴィアン様、ありがとうございます。」
「ところであの護衛たちは父上が雇ったのかね。」「私が雇いました。彼らに何かあったのですか。」
「まあ、貴族に仕えるのに慣れていない様子でしたので心配になったのです。」「ええ、貴族に仕えるのは初めてですから至らないところがあると思います。」
「こう言っては何だが、彼らはふさわしくないと思うのだ。息子のブレーズと私の兵を5人護衛にと思うのだがどうだろう。」「いいえ、彼らに護衛してもらいます。」
「ブレーズは中級魔法士で剣の腕もたつ、どうだろう。」「護衛は私の雇った者で充分です。」
ブレーズが口をはさむ。おそらく父親に泣きついて護衛の話を作り、俺に近づきたいのだろう。
「アニエス、僕では不満があるのか。」「いきなり口説きにかかる殿方はちょっと・・・」
「嫌わないでくれ。」「申し訳ありません。」
ブレーズは情けない顔をする。しかし、俺は食事中、彼の視線を浴び続ける。まだ、諦めていないようだ。執念のようなものを感じる。
夕食後、俺はローズの部屋へ行く。俺はローズに愚痴を言う。
「お姉さま、しつこくて困りましたわ。」「アニーはあの息子に気に入られてしまったみたいね。」
「私は全く興味がありませんのに。」「本当なら良い縁談になりそうだけど・・・あれは嫌よね。」
「はい、嫌です。」「私も5歳児に執着する男は嫌ね。」
この後、俺たちは明日行く王都の話をする。どうせならローズと結婚したいものだ。
夜が更けていたので俺は部屋へ行って、寝ることにする。一応、用心にドアに探知魔法をかけておく。
これでドアを開ければ俺は寝ていても気づくことが出来る。もちろんドアにはカギをかけているが保険のようなものだ。
深夜になり眠りについていると俺は探知魔法で起こされる。ドアが開いたのだ。侵入者は部屋に入って来る。
そして、魔法を詠唱する「いぶきよ集いて我を守る盾と成せ。ウインドシールド」、俺はなぜウインドシールドを使うのかわからない。侵入者は言う。
「アニエス、起きて、僕だ。ブレーズだよ。」「ブレーズ様、無礼ですよ。人を呼びます。」
「叫んでも誰も来ないよ。この部屋はウインドシールドで覆われているから音は外に届かないんだ。」「私をどうするつもりですか。」
「アニエスを僕のものにするのさ、さあ逃げられないよ。」「なぜ、私が逃げなければならないのですか。」
「覚悟を決めたんだね。優しくしてあげるよ。」
どうもこいつは俺が抵抗できないと思っているらしい。ブレーズは手を広げて近づいて来る。俺はウオーターボールをブレーズの腹に打ち込む。
ウオーターボールは彼の腹にドンと鈍い音を響かせて、彼を弾き飛ばす。
「なんだ今のは・・・」
彼は床に転がり気を失う。俺はか弱い令嬢を演じることにする。
「キャーッ」
俺に叫び声に人が集まってくる足音がする。一番最初にローズが部屋に来る。
「アニーどうしたの。」「お姉さま助けてー」
俺はローズに抱き付き、震えて見せる。次にバレーヌ伯夫妻が来る。
「アニエス嬢、どうしたんだ。」
俺はローズに抱き付きながら床に転がっているブレーズを指さす。ローズが怒り出す。
「こいつがアニーに手を出したんだね。」「しかし、ブレーズは倒れているぞ。賊が入り込んだのかもしれない。」
ファヴィアンはブレーズをかばおうとする。俺は泣きまねをしながら説明する。
「寝ていたら突然、ブレーズ様が襲ってきたのです。私、怖くて・・・」「アニー、大丈夫よ。今とどめをさすから。」
ローズが物騒なことを言う。ファヴィアンは慌てて言う。
「ブレーズの処遇は私に任せてくれないか。父上のジルベール様にも謝罪をする。」「分かりました。混乱しているのでお任せします。」
俺はローズと一緒に寝ることになる。俺はこのご褒美とウインドシールドに意外な使い方を知ったことで良しとする。
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