第4話 おもらし、してないよ

 俺は魔導書にたどり着くまでに5冊の本を読破した。小説が面白かったから続きを読んでしまったのはついでだ。

 俺は「誰にでもできる魔法」という本を手にしている。初めてなので初心者向きがいいはずだ。

 最初に爆裂魔法が載っている。この本の作者はアホなのだろうか。これは最初から読んで実践するより部屋で試せる魔法を選んだ方がよさそうだ。

 まずはウオーターボールを試してみることにする。どうも魔法は詠唱してイメージを構築しながら現象を発生させるらしい。

 詠唱はクロエに聞かれるとまずいので頭の中で詠唱することにする。どれどれ「命のしずくよ、集まって形を成せ。ウオーターボール」頭の中で水をイメージする。

 何も起きない失敗か。いや、握っていた右手が湿っている。間違いなく水分が現れたのだ。天才魔法幼女の誕生の瞬間である。

 もう一度試してみる。「命のしずくよ、集まって形を成せ。ウオーターボール」そして水をイメージ。また、右手が湿っている。

 これは面白い。次はどれにするかな。やっぱりファイヤーボールだな。頭の中で詠唱して「熱き力よ、集いて形を成せ。ファイヤーボール」そして頭の中でイメージする。

 ボシュ

右手の平の前で一瞬明るくなる。いいぞー、もう一度だ。「熱き力よ、集いて形を成せ。ファイヤーボール」炎のイメージ。

 ボシュ

今度も右手の平の前で一瞬明るくなる。これは面白い。よし、もう少し大きな炎をイメージしよう。

 頭の中で詠唱「熱き力よ、集いて形を成せ。ファイヤーボール」そして大きめの炎をイメージ。

 ボッ

右手の平の前で炎が一瞬輝き消える。うん、うまくいった。俺って天才。これは将来、大魔法使いも夢じゃない。

 俺は、アレな勇者を導くという役目を忘れている。調子に乗ってファイヤーボールを続ける。

 ファイヤーボールは小さな玉になって消える。今度はファイヤーボールを維持するようにする。

 「熱き力よ、集いて形を成せ。ファイヤーボール」はい、イメージ。

 ボボーッ

少し長くファイヤーボールを維持できた。うん、うん、いいぞ。やるたびにファイヤーボールの維持時間は長くなる。

 そしてファイヤーボールは消えなくなる。これどうやって消すんだ。部屋に足音が近づいて来る。まずいクロエだ。

 どうする。そーだ、ウオーターボールだ。「命のしずくよ、集まって形を成せ。ウオーターボール」頭の中で炎を打ち消すイメージをする。

 バシャ

ファイヤーボールは見事に消えた。しかし、俺の下半身と床は水浸しだ。この時、クロエが部屋に入って来る。

 「おもらし、してないよ。」「まあまあ、アニエス様、誰でも失敗はありますよ。」

違うんだ。俺をそんな生暖かい目で見ないでくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る