第17話
家に帰るとユリナは未だにぐったりとしたままだった。布団を肩まで被り、額からは汗を大量に汗をかいていて苦しさが痛々しい程に伝わってきた。悪夢でも見ているのだろうか。気持ち悪そうな顔で喘ぎ声を上げながら手を上に伸ばしたりもしていてとても大丈夫には見えなかった。ユリナの傍に座ると僕はユリナの手をぎゅっと握ってやった。手は汗でべたべたしていた。その汗ばんだ手は魂を掴むかのように僕の手強く握った。爪だって食い込み痛かったが僕は堪えた。少しの間そうしていると波が収まったのからしくユリナは落ち着いてきたらしく体で疲弊しきった精神をそのまま躍動させるようなことはなくなった。
僕は静かにその場を離れてキッチンへと向かった。
「ユリナはずっとあんな感じなの?」と僕は父さんに訊いた。
「そうだな。呼吸を乱しているのがわかるような苦しそうな声がこの部屋まで聞こえてくる。朝は食べたものを全て戻したし、歩くのだってままならないらしいからな。トイレに行くときも付き添っているような状態だ」
「どうしてそんなに平気そうなの?」
「あのなあ、お前には平気そうに見えるのかもしれないが俺は出来る限りのことを全てしている。ユリナのことを何よりも優先している」と父さんは静かな怒りを乗せた声で言った。
「優先しているわりにはユリナは苦しそうだけど」
「本気を出せばお前ならユリナを元気にさせられるのか」と父さんは怒った気に言った。
「ごめん」と僕は誤った。「でもユリナはどうしてあんなに苦しそうなの?」
「きっとよくなる」
どんと僕は机を叩いた。そして部屋を出た。
それから僕はずっとユリナの傍にいた。険悪な関係になったと思っていたのに父さんは料理を作るものだから僕はやめてくれよと思いつつも平らげて、またユリナの元へと戻り手を握った。ずっとそうしていると父さんに風呂に入らないのかと言われて、返事もせずに浴槽に浸かり出て、またユリナの元で時間を過ごした。父さんの部屋からもの音がしなくなったことでおおよその時間経過がわかった。僕はいつまでユリナの顔を見ながらユリナの手を握っていただろうと思いつつ、布団を敷いて寝る準備をした。できるだけ物音を立てないようにしたつもりだったがユリナが目覚めた。髪はぼさぼさで、汗をたくさんかいてびしょ濡れなのが伝わってきた。
「ごめん。うるさかったね」と僕は言った。
「ときどき目を覚ましてたよ。だけど寝たふりをしてたの。苦しそうなのは不利じゃないからね」
「今はマシになったの?」
「とても気分が悪くて吐いちゃいそう。頭だってくらくらするの」
「変なことを聞くけど、その病気はどんなものなの?」
「今までだってこういうことがあったでしょ。だから大丈夫だよ。どんなものなのかを訊かれてもどう答えればいいのかわからないよ」とユリナは下手くそに笑った。
そしてユリナは緩慢な動作で体を起こした。その動きは鈍重な野生動物のようにゆっくりであり危うかった。すぐさま僕はひざまずいてユリナの両肩をもってやり体を倒れないように支えた。ユリナの汗の匂いを感じている一瞬の中で僕の体は前へと倒れた。ユリナが下にいて上に僕がいた。僕の下にあるもののは濡れている感触があり、柔らかさがった。僕は急いで煩悩を経ちユリナから離れた。掌を腕立てをする要領で柔らかい布団の上に乗せて、僕はユリナから距離を取った。ユリナの顔は恍惚としていた。
「逃げないでよ。そうしてたいの」
「重いでしょ?」
「いいよ。重くたっていい。体温を感じたいから。温もりがないともっと辛いの」
ユリナの不規則な息遣いは僕の鼓膜をくすぐるように揺らした。移ったみたいに僕の呼吸も不規則になっていった。血流が集中していく場所を意識した途端に鼓動の音がうるさくなった。早くもなった。まるで僕を急かしているかのようだった。何かに駆り立てられたみたいに僕はユリナの唇を奪った。ほぼ無意識的で、本能の赴くままに貪った。すぐに服も脱ぎ、ユリナには極力優しく脱がせてやった。そして緊張感で震える中でできるだけ優しく扱った。
そうして僕は一線を越えた。
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