第9話

 そのまま一週間が流れた。ユリナは夜に家を出て行くときもあれば学校帰りに家を出ることもある、不規則な生活を送っていた。僕はそれを心配しながら見守っていたがやはり止めるべきだったのだろう。筆記テストの当日のことだった。ユリナは体調を崩した。朝目覚めると汗だくになって、はあはあと荒い息を吐いて、悪夢に苦しむような顔をしていた。僕は急いで父さんにそれを報告した。すると父さんは今日一日ユリナの看病に徹すると言ってくれた。だからお前は学校に行けとそう言ってくれた。僕はユリナが心配になりながらも三人と学校に行った。

 ネオンからテストについて教えてもらっていたおかげでそこそこ問題を解けた。おかげでテストが終わってから、ユリナのことを考える余裕が僕には出来た。ユリナは今頃眠っているのだろうか。ご飯を食べているのだろうか。そんなことを考えながら僕は一日の学校生活を終えた。学校が終わるとあちこちからユリナがいなかったおかげで一位が取れるかもしれないなどと言っている人間がいた。無性に僕はそいつを殴りたくなった。それを抑えて、そして考えた。僕はどうして出逢って一か月ほどしかない経たない少女のことで、ここまで真剣に悩んでいるのだろうと頭を悩ませた。

「帰ろうぜ」とネオンに言われて僕の意識は戻った。「大丈夫か? テストはできたんだろう」

「ありがとう。ネオンのおかげでそこそこできたよ。おかげで居残りして勉強しなくてすみそうだ」と僕は気丈に言った。

 ネオンは何かを思い至ったような顔をした。

「ユリナのことか?」とネオンは僕に質問した。

「うん。やっぱり考えずにはいられないよ。ユリナは勉強は誰よりもできていたんだろう。この日、ユリナは本当なら評価されるはずだったんだ」

「歩きながら話そうぜ」

「うん」と僕は答えた。「ツユハは?」

「帰ったよ。ツユハはああ見えて一夜漬けするタイプだからな。あまり容量もよくないから。だから家に帰って寝るんだろうよ。まあいつもそんな感じだよ」

 僕とネオンは学校を出て歩き始めた。

「ツユハは家には帰ったが、それでもユリナなのことを心配していたよ。勘違いをしないように言っておく」

「勘違い?」と僕は聞き返した。「何を勘違いするのさ」

「だって、普通ならこういうときお見舞いに行くもんだろ」

「ネオンはお見舞いに来るの?」と訊いた。

「ユリナは朝どんな感じだったんだ? それ次第だ」

「辛そうだったよ。死んじゃうのかと思うくらい、触れると熱かった」

「ならやめておくよ。こうなることがわかっていれば、無理をするなの一言くらい言えばよかったな。これからは特訓に付き合ってやろう。危なっかしいからな」とネオンは言った。「ロア、よろしく伝えておいてくれよな」

「わかったよ」と僕は言った。

「ところでロア。ユリナとの記憶はまだ戻りかけたりとかはしてないんだよな」

「ごめん。何も思い出せないよ。思い出せる予兆もない」と僕は罪悪感を感じながら言った。ネオンは首を横に振った。

「違うよ。お前の記憶が戻っているのかが本命で聞いたんじゃない。聞きたかったのはそんなことじゃないんだ」

「じゃあなんなのさ」

「お前って今少し感情的になっているだろう」とネオンは言った。「お前にとって、ユリナはたった一か月しか一緒にいない存在なわけだろう。だが、お前の中でユリナはもう、他人でもなく大切な存在になっているのかなと思って」

ネオンは神妙な面持ちだった。何か一つのことをとても深いところでで考えているかのようだった。僕は今日一日の自分の情緒を振り返ってみた。確かに今日の僕はどこか落ち着きがなく、イライラしていたかもしれないと僕は思った。僕の頭の中は間違いなくユリナのことに染め上げられていた。

「そうかもしれない」と僕はしみじみと言った。「僕は確かに今日ユリナのことを深く考えていたよ。テストを解きながら、ユリナだったら僕よりいい点数を取っていたのかなとか、考えいた」

「ユリナのことが恋愛的に好きになったか?」

「どうしてそうなるの?」

「だって、お前からすればユリナってこう見えているわけだろう。周りの意見に惑わされず、自分自身を信じて努力する人間なわけだろう。結果は二の次、とにかく努力する奴。そして、ユリナはお前のことが好き。健気で一生懸命な奴が、お前のことが好きなんだ」

「言われてみれば、そういうことになるね」

「とぼけてるのか。それとも割と真面目に、お前はユリナを恋愛対象として考えていないのか?」

「想像に任せるよ」と言って僕は立ち止まった。そこはもう僕の家だった。「それじゃ」と言って僕は家に入った。ネオンの返事を待たずドアを開いて入った。確かに今日の僕はむしゃくしゃしているようで、これ以上ネオンとも一緒にいたくなかった。

 僕は家に入り、音を立てないようにして小走りで自分の部屋に受かった。廊下で父さんに会って、僕は小さな声でただいまと言った。そしてユリナは起きているかと訊いた。父さんは起きていると答えた。僕は肯き自分の部屋に入った。ユリナは体を起こさないまま、おかえりと僕に言った。ただいまと僕は返した。

「少し頑張りすぎたみたいだね」と眠っているユリナの前に座ってから僕は言った。「具合はどう?」

「大丈夫ではないかな」とユリナは弱弱しく笑った。「お兄ちゃんの言う通り頑張りすぎたのかもね」

「そのことなんだけど、ネオンとツユハに話したんだ。ユリナが毎日頑張っていることを。じゃあ二人ともサポートとかをしてくれるらしいんだ。だからこれからはみんなで頑張ろうよ」

「ほんと? 嬉しいな」とユリナはまた弱弱しく笑った。

「ユリナならきっと大丈夫だよ」と言って、僕は布団をかけ直してやった。

「お兄ちゃん、やっぱり体が思うように動いてくれないのは不便だよ。なんか自分が情けなくなって悲しくて、みんなと別の世界に迷い込んで一生出られないんじゃないかって、寂しくなるの。仲間外れみたいな感覚になっちゃうの」

「ユリナは仲間外れなんかじゃないよ。ネオンやツユハだっているじゃないか。それに体もよくなればすぐにまたいつも通りさ」

「ありがとう」とユリナは体を起き上がらせた。「今のお兄ちゃんが私は好きだな」

「今の?」と僕は聞き返した。

「そう、今の」とユリナは柔らかい声で言った。ユリナの指先が僕の頬に触れた。「今のお兄ちゃんは、なんかちょっと自信がありそうだから好き。だけど、どこか怒っているようにも見えるからそういうのは嫌」

「どっちなのかわからないよ」と僕は苦笑した。

「わがままでごめんね。えっとね、頭がぼんやりするからあんまりはっきりは言えないの。情報が上手く整理できなくて。だけどね、今のお兄ちゃんは総合的にはとても好きだよ。いつもより好き。いつもはね、自信なさそうだから。時々、おいおいそこは勇気出せよなんて思うところがあったからさ」

「そういうところ嫌い?」と僕は訊いた。

「ちょっと情けないと思うかな。腹立っちゃう」

「そっか」と僕は苦笑を浮かべるしかなかった。苦笑を浮かべながら、クラスメイトに標的にされるユリナを庇おうとして、何も言えなかった記憶が蘇った。本当にユリナの言う通りだなと僕は思った。

「あ、でもね。私、お兄ちゃんのことは昔から大好きだよ。本当だよ。好きなの中の嫌いってことだよ。嫌いの中の嫌いってことじゃないよ」とユリナは慌てながら言った。

「ありがとう」と僕は言った。

「でもね、お兄ちゃんはね、もっと堂々としていいと思うんだよ。本当に」と言って、ユリナは僕の頬に触れていた右手と、持ち上げた左手で僕の頬っぺたを強く弱くもない力でサンドイッチを作るみたいに挟んだ。「お兄ちゃんは、私よりも有能な力を持っているんだからね。凄いんだからさ」

「ありがとう。でもユリナの方が凄いよ」

「どうして? 努力しているからなんて言わないでよ。照れるから」

「なら言い方を変えるよ。頑張ってるからユリナは凄いよ」

 ユリナは僕の顔を挟んでいた両手を除けて、両腕を僕の首に巻き付けた。僕は抱き着かれる格好になった。汗ばんだ体はしかし、柔らかかった。

「ありがとうお兄ちゃん。大好きだよ」と言ってユリナは抱きしめていた腕を解いた。そのまま僕の顔を正面から見た。そのまま自然的に僕の唇に自分の唇を重ねた。重ねたのは一瞬ですぐに離した。まるで仕事に行く旦那に妻がするような、そんな一瞬のキスだった。

「お兄ちゃん、照れてる?」

「照れてないよ」と僕は茫然としながら言った。

「久しぶりのキスだからね。実は私も照れてるよ」

「なんで久しぶりにキスしたの?」と僕は訊いた。

「お休みのキスだよお兄ちゃん。したい気分だったんだよ。じゃあお兄ちゃん、私は食欲もわかないから寝るね。だからさ、それまで私の手を握っていて」

「いいよ」と僕は言った。「最後に訊いてもいい? どうしてそこまで頑張れるの?」

「頑張ってる自覚はないよ。好きだからやってるの。そんな自己中心的な理由で心配かけてごめんなさい」と言って、ユリナは体を横に倒した。五分ほどで規則的な寝息が上がり始めた。僕はそれを確認すると音を立てないように部屋を出た。部屋を出て僕はダイニングへと向かった。重厚に作りのコップに僕は蛇口を捻って水を入れ、食卓に着いた。コップに入った水を口をつける程度飲み僕は考えた。ユリナがどうしてあそこまで頑張るのか。しばらく思考を巡らせ見たが僕にはさっぱりわからなかった。周りの人間にバカにされて、劣等感を感じて、他の人間に簡単にできることが自分には出来ないと、それを実感しながら努力をするのが、何故楽しいと言うのか。ユリナの立場になり、一周するまで考えても理解ができなかった。

「そもそも世界が滅ぶんだから、仕方ないじゃないか」と僕は考えをまとめた後にそう呟いた。もう一度コップに口を付けようとすると父さんが部屋に入ってきた。そして僕の席の正面に腰かけた。

「悩んでいるようだな」と父さんが言った。「ユリナのことか?」

「そうだよ。ユリナのことだよ」と僕は言った。「どうしてユリナがあそこまで頑張るのか、僕にわからないんだ」と水の中に入ったコップを見ながら僕は言った。

「だとするとお前には一生理解できないことなのかもしれないな」と父さんは僕に聴こえる程の小さな声で言った。

「どういうこと?」

「考えても見ろよロア、ユリナが歩んできた人生を知っていようが知ってなかろうが、お前はそれ以前にユリナじゃないんだ。あいつの心がわかるはずないだろう。お前はお前でしかない。他の誰でもないんだ」と言い父さんは持たれるように机に両肘をついた。「だからロア、お前には理解しようとしても無駄なのかもしれない。そういうことだってあるよ。そして、それでも理解しようとするお前は優しい奴だとも、俺は思う」

「優しくなんてないよ僕は」と僕は言った。「それにやっぱり僕にはユリナが何を思ってあそこまで頑張っているのかわからない。ユリナの気持だって理解することはできない。父さん、今日はユリナが評価されるはずだったんだ」

「評価?」と父さんは訊いた。

「ユリナは学校で一番勉強ができるじゃないか。魔法は使えないけど、それでもさ、勉強はできる。僕は今日ユリナが評価されて欲しかった」

 僕は気付けば過去の自分を照らし合わせてそう言っていた。勉強をしていい高校に行った。だが、虐められて不登校になった。僕はユリナに、ただ真っ向からテストを受けて欲しかった。病気というアクシデントに落とされることなく正当な評価をされてほしかった。

「ユリナが勉強を人一倍出来るのは知っている。だが今回においてはどうだっただろうな。だってあいつ、今回家では全く勉強してなかっただろう。魔法の特訓ばかりしていたぞ」と父さんは言った。言われてみれば、と僕は思った。「それに学校ではずっと寝ていたんだろう。今までは家で勉強をして授業中に寝ていたが、今回は魔法の特訓をして授業中寝ているわけじゃないだろ。テストなんて受けたら返って痛い目を見てたんじゃないのか」

「それでもさ。きっといい成績を残せていたんじゃないかって思うんだよ」と僕は口をついたように言っていた。

「必死だな」と僕の目を見ながら父さんは言った。「まるで罪人が必死に言い訳をしているようだ。罪悪感に駆られているように見える」

 罪悪感に駆られているというその指摘はある意味では正しいのかもしれないと僕は思った。僕は確かに父さんの言う通り、罪悪感を感じていた。罪悪感を、ユリナのために行動を起こせない自分に確かに感じていた。今に思えば僕は、償いのような、自分の無力を埋め合わせられる何かを探し求めているのかもしれなかった。

「自ら行動を起こせない。ならせめて、味方になっているポーズを取らなければならない。それは、行動を起こせない人間の義務だと僕は思っている。いや、少なくとも、世間一般ではそうでなくても、僕はユリナに対してそうあるべきなんだ」と僕はまるで、自分を鼓舞するかのようにそう呟いていた。父さんははあとため息を吐いた。呆れているかのようなため息だった。

「俺が知っている限りじゃあ、昔のお前はもっとユリナのために自分の身を擦り減らすことのできる奴だったはずなんだがな。擦り減らすことが出来ないわけじゃなくて、擦り減らす勇気がないみたいだな、今のお前は」

「怖いんだ。現状を維持することはとても簡単なことのはずなのに頭が痛くなるくらいに悩むんだ。本当に今の僕のままでいいのか、何度も男葛藤するんだ。答えが出ないことが分かっているのに、狂ったみたいに幾度となく考えるんだ。何が正しいか分かっているのに、足は縫い付けられたみたいに動かくなくて、声だって出やしない」

「なあ」と父さんは触りを確かめるように爪を机に当てながら言った。「脈絡がなくてお前が何を言いたいのかいまいちわからないが、ユリナへの気持を再認識したいって解釈でいいか?」

「あ、えっと、うん」と僕はたじろぎながら言った。再認識という、過去と同化させた言葉に僕は戸惑ってしまった。父さんは僕の心中を覗き込むように僕を見たのち、また視線を下げた。

「結局さ、やっぱり一つしか答えがないんだよ。回りくどく立ち回っても、お前が目指している理想には高い確率で届かないだろうさ。自分でわかってるだろ。別に、常に合理性を意識して動けと言っているわけじゃない。大抵の決断は失敗したところで構わないんだ。だがなロアルス、ユリナの心に触れたいのなら、きっとそうした方がいいんじゃないか。この決断は意味を持つ」

「いいのかな」

「そこまでは知らない。だから、ユリナと同じところから、同じものを目標にするのもいいんじゃないか」

 確かにユリナと同じものを目標にすれば必然的に全部分かるのかもしれない。でもそれは、その瞬間ユリナが見ているものや感じているものが共有されるというだけなのではないかと僕は思った。僕はユリナが見ているものや感じていることを知りたいがもっと神髄にあるものを知りたかった。奥底に眠っている本質のような格のような、ユリナを形成する部分が知りたかった。

「再認識したいんだろう?」と父さんは再び僕に訊いた。「難しく考えすぎることはないだろう。情報を切り刻みすぎるのはよくないな」

「本当に僕はどうすればいいのかな」

「お前が求めているものはきっと、お前が思っている以上に複雑で言語化しがたいものなんだろう。形のない概念のようなものなんだ」と言いここで父さんは一度言葉を区切った。「お前は自分が変わりたいと言っているが、それはあくまで福産として手に入るんじゃないか?」

「いつ?」

「俺にはあいにく未来が見えないんだ。いつかはわからない」と言うと父さんは椅子から立ち上がった。

「なら、どこで?」と僕は訊いた。訊こえたはずの僕の声を無視して父さんは部屋から出て行った。質問ばかりする僕に飽きれたのだろう。僕は孤独を味わいながら水を味わった。孤独というスパイスが振りまかれた心を感じながら飲んだ水は味はしなかった。しかし僕の脳の回転の速さをほんの少し緩めてくれた。明らかに脳は不毛な回転をしていたので、僕はそのまま水を一気に飲み干した。




 ユリナの体は三日で良くなった。テストが終わってからの初日以外はネオンもツユハもお見舞いに来た。幸いにも、ユリナは初日こそ相当苦しんでいるようだったのだが、それからは順調に回復へと向かっていき、ユリナはすぐに学校に復帰した。テストを受けることはもうできないが、ユリナはそんなことを気にした様子もなく学校生活を続けているように思えた。ユリナは周りの生徒にいちゃもんをつけられても怒らせない程度に流して、充実感の溢れる様子で毎日を過ごしていた。

僕は一日が過ぎ去る度に、その日ユリナのために何かができただろうかと振り返った。そして劣等感を感じた。ときにツユハが、あるときはネオンが、ユリナのために周囲の生徒を諫めた。そして僕はやっぱりそれを眺めることしかできなかった。眺めながら、何か言わなきゃと、一ミリだけでもステップアップしなきゃと思うのだが、それが行動に映ることはなかった。また明日があると、最終的には一日の終わりに振り返り後悔する毎日は本当に寝つきが悪かった。寝られないまま、僕の頭の中には父さんの言葉が小さく浮かんできた。毎日毎日浮かんできた。僕が変わることは、ユリナを再認識したとき、必然的に手に入る副産であるという言葉が浮かんできた。そして、ユリナのことだって未だによくわかっていないことに気付き、無力感に押しつぶされそうになった。結局、ユリナとは仲睦まじい兄妹として、いつも通りの僕を演じて接することしかできなかった。

しかし、それから少しすると毎日に変化が生まれるようになった。病み上がりなのでしばらく無理をしないようにしていたユリナが魔法大会に向けて再度特訓をするようなってからのことだ。ユリナが特訓をするときに、僕とネオンとツユハも一緒に特訓するようになった。場所は森だ。朝や夕方、ときに夜、そんな日々を重ねる度に、僕の瞳に映り、僕の心が作り上げたユリナという少女の虚像が、徐々に崩れ去り、新たなユリナが上書きされていった。ユリナは僕が思っていた以上に一生懸命に、だがそれ以上に楽しそうに魔法を扱う練習をしていた。その練習の最中に垣間見えるユリナの表情の中には僕が見たことのない感情もあるように思えた。特訓を続ける中である日ネオンが、ユリナに今まで特訓していた場所を訊くとユリナはここで特訓していたと答えた。そのためネオンとツユハはそれはもう激怒した。魔法の特訓なら、魔獣がいない場所もあるだろうと。するとツユハは、結果的に無事だったのだからいいではないかと唇を尖らせて言って、ネオンとツユハは更に激昂した。

僕は、毎日が、今までとは異なる色へと変わっていくのを感じながら過ごした。変わりゆく日常の色と、過行く時の流れを感じながら僕は思い返した。僕には才能があるのだった。魔法を扱う才能が確かにあった。魔法を扱う練習では、皆がユリナのサポートに回っている。大抵、僕らはユリナをサポートしている。ユリナのサポートの合間で、僕やネオンやツユハは魔法を放ったりしていた。授業で魔法を放つことがあったが、四人で特訓を始めるようになり、ネオンの魔法を間近で見る機会が増えた。ネオンの魔法を間近で見る日が幾重にも重なった。そして、僕はついに思った。僕にはネオンに勝つだけの力が備わっているのだと思った。その力はまだ小さな灯のようなものなのかもしれない。ネオンの力と比べてみれば本当に小さな灯なのかもしれない。だが、その灯には可能性があると、なにより灯を有す僕であるかあらこそ、僕にはそう思えた。

思えてならなかったので自分を強くしてほしいと僕はネオンに頼んだ。するとネオンはあっさりと承諾した。その日以降、僕の特訓にはギアがかかった。教師の許可を取り、学校の庭で特訓をするようになった。ネオンは思っていた以上にスパルタだった。魔法を発動しては霧散させる練習は神経を使った。そのような基礎的な練習を何度もこなすことになった。僕らの特訓の様相は、二つに枝分かれしていた。、ネオンが僕に、ツユハがユリナに付き添った。その調子で時間は流れていった。父さんが言っていたことを思い出し、実感しながら、時間は流れていった。ユリナの気持を理解することができているようなそんな気がした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る