第7話

この世界に来て三週間目が経った。僕はネオンの家を訪れていた。来月に筆記テストがあるらしく、僕は勉強のことを何もかも忘れてしまっていたのでネオンに教えてもらいに来ていた。ネオンは僕の頭がまっさらなテストの答案用紙くらい酷いにも拘わらず楽しそうな笑顔で承諾してくれた。その笑顔は非科学的な実験をする科学者のような笑みだったような気がする。まっさらな僕をモルモットにでもする気なのだろうかと本気で思ったが、そんなことはないと信じたいと僕は思った。

「この子は?」と僕は訊いた。

 僕は部屋に入り、しばらくの間気付かないふりをしていたが、ついに耐えられなくなって訊いた。ネオンの部屋には、猫くらいのサイズの、ワニのような生物がいた。明らかに人間を喰らいそうな姿形だった。

「ああ、ジークだ」

「名前を聞いているんじゃなくて」

「名前はジーク。生物としての種類は魔獣。出生地はおそらくすぐそこの森。年齢不詳。好物は人肉だ。主に、肉ならなんでも食べるがな」

 魔獣は、赤く充血した瞳の中に僕を収めていた。好物は人肉。日常であまり耳にしない人肉という単語を三秒程かけて理解した僕は、即座にネオンの後ろに隠れた。

「安心しろよ。人間に危害を加えないように教育してある」

「だけど危害を加えることでしか生きていけないんだよね」

「可哀想なことにその通りなんだよ。だからそこは、危害を最小限にこっそり育ててるわけさ」

「危害を最小限に? こっそり?」

「そう、俺が魔獣を殺してとっつかまえてきて、こいつに食わしてやってるのさ」

「こっそりとは?」

「魔獣を飼ってるなんて知られたら、町中が大騒ぎになっちまうだろう。親にもバレないように、育ててるのさ」

 僕の親友は頭のねじが飛んでいるらしかった。いたずらとかをして教師に怒られるヤンチャなタイプの男かと思っていたがそうでもないらしい。そうでもないらしいではなくて、完全にそうではなかった。ワイルドな風味のカッコよさがある僕の親友だが、中身はワイルドを通り越して犯罪的であり、超えてはならない一線を倫理的に超えた、マッドサイエンティストのようにサイコパスな奴だった。いくらジークが人間に危害を加えないように教育していると言われても僕の恐怖が取り除かれるはずがかった。

「一から聞いてもいい? 一からじゃ足りない。ゼロから聞いてもいい?」

「昔のお前がジークを見た時と似たような反応だな」

 昔のお前と呼ばれたことに反応するのを僕は抑えた。昔の僕のことを訊けば、ネオンの心の傷が抉れてしまうかもしれなかった。僕はそれが嫌だった。

「よし分かった。ゼロから話そう。こいつを飼い始めたのは丁度一年くらい前だ。森を散歩しているとこいつを見つけてな。こいつはそのとき血まみれだったんだ。別に驚かなかった。弱肉強食世界だ。弱者が食われるのは当然だ。だから俺は助けなかったよ。こいつだけを助けちまうのは平等じゃねえだろ。それに俺には魔獣に思い入れもなかったからな。当然だろ。人を殺すんだからよ。その次の日、俺はまた森を散歩したよ。雨だったにもかかわらず散歩したよ傷だらけのジークのことが気になったわけでもねえ。本当に単なるきまぐれだった。するとジークはいたよ。同じところに傷があったから分かった。ジークは穴に隠れてた。雨に濡れて、さぞ傷口が痛むだろう、冷えて体温も低下しているだろう、腹も減っただろう。誰にも哀れみを感じさせる風体でな。俺は助けようか迷った。なぜだと思う? ジークの瞼は閉じていた。体を丸くしていたんだ。俺には死んでいるように思えた。俺は速やかにその場を去ろうとしたよ。眠っていても悪いと思って。でもそうすることはできなかった。もし生きているのなら楽に殺してやったら方がいいんじゃないかと思ったんだ。もっとでかい魔獣に肉を引きちぎられておびただしい悲鳴を上げながら死ぬより、俺が殺した方がいいと思ったんだ。だから、取り合えず連れて帰った。眠っているのなら目覚めてから殺せばいい。死んでいるのなら、俺が穴なりに埋めればいい。そう思ったからだ。生きてようが死んでようが、すぐに別れるつもりだったわけさ。ジークは次の日の朝、目覚めた。衰弱うんぬん以前に、魔獣は生命力が強い生物だったからな。そこまで驚かなかった。俺はすぐに手を下してやろうかと思った。だができなかったよ。飢えているはずなのに、俺を襲うこともなく、腕を舐めてくるんだ。ぺろぺろぺろぺろ。俺はどこにも傷を負っていないのに。俺を労わるみたいに、何度も何度も。すぐに死ぬかもしれない。目が覚めたからといって状態は不安定だ。俺はどうすればいいのかわからなかった。気付けば、俺がこいつを助けることは使命になっていて、俺はこいつを助ける方法を必死で探していた。家に魔獣の肉なんてあるはずもなくて、他の食べ物を口に入れて死んでもやべーから。だから俺は台所に言って、自分の腕の肉を些細な量切って、食わしたんだ。元気になったよ。でもそれからは魔獣を駆ってきているな」

「どうしてそんなことをしたの? わざわざ自分の肉を切る必要はあったの?」

「命を繋ぐためには必要な処置だっただろう。一刻一秒を争う事態なのは明白だったからな。幸い大雨のおかげで街の人間は外に出ていなかったからバレなかったからよかったよ」

 人間に害のある生物の命を救った。それも自らの肉を引き裂い助けた。それは常人に真似することができないことだ。少なくとも動悸がなければできるはずがない。僕には理解できないことでいっぱいだった。

「そんな顔で見るなよ。俺は本当にただ助けたかっただけなんだ。学校で、ユリナを見下している奴らがいるだろう。他人の行動や言動に影響されて侵食されて、自分がどうしたいかを押し殺している奴ら。俺はああいうのが嫌いだから、なりたくないんだ。自分を隠したり偽ったりするのは仕方がないと思うよ。それは人間の本能だし誰だってする。俺だってしてる。だが他人に影響されて、歩幅を合わせるほどつまらないことなんてないだろ。そんな生き方をするなら死んだ方がましさ。世界が炎に包まれて暑さでどうにかなりそうになれば俺は全裸で街を闊歩するのもありだと思うよ。俺だったらそうするな」

「独りよがりに生きたいってわりには学校ではみんなに好かれている感じだけど」

「顔面は評価を下す上で体力のような役割を果たすと俺は考えている」

「ごめん意味がわからない」

「顔面が良い奴ほど体力は高い。そういうことだ。俺は学校で女が寄ってきたときのらりくらり躱してるだろ。もしお前にモテ期が到来してそして俺みたいなことをすれば、間違いなく誰も寄ってこないぜ。体力が多いから多少のダメージはあってないようなものなんだ。俺は好かれる努力をしているつもりはないよ。あいつらのことだってちっとも好きじゃない。あいつらが死んだらジークの餌にしてもいいくらいに好きじゃないぜ」

 ネオンはジークの頭の上に手を置いた。ジークはくぅんと犬のような鳴き声を上げた。先程まで怖かったが、僕の目にもいつしか可愛らしく映っていた。

「なでていい?」

「ああ」

 僕は今まで隠れていたが、ジークの前に歩み出た。本当に犬のようなサイズだ。僕はおそるおそる手を伸ばし、精巧な機械に触れるみたいに慎重に触れた。ジークの頭はさらさらな石のようだった。つるつるで固かった。僕は優しく手を動かした。ジークは気持ちよさそうに目を細めた。

「可愛い」と気付けば僕は声に出していた。

「そうだろう、そうだろう」とネオンは得意げに言った。

僕は頬を緩ませて、ジークの頭を撫でて続けた。

「可愛いだろ」と、ネオンがもう一度言った。

「さっきも聞いた」

「俺が死ぬまでこいつを育てる。つまり世界が死ぬまで、俺はこいつを育てるよ。死ぬまでの目標の一つだ」

「目標なんてあるんだ」

「今作った」

「他には?」

「お前と魔法大会で戦うこと」

「勝つことじゃなくて?」と訊きつつ僕は驚いていた。なんだか買い被られているような気がしたからだった。

「高望みはしねぇ主義なんだ」

「他にも色んな目標ができたよ。今できた。お前とユリナが、世界が滅びるその瞬間まで仲睦まじくいられることだ。最近はどんな感じだ。学校で見ている限りじゃ違和感なさそうだが」

「そうだね。学校で見ている限りじゃ違和感がないと思う。違和感はないけど、僕には不思議でたまらないことがあるんだ。昔の僕が今の僕を知れば、もしかすれば違和感を感じるかもしれないよ」

「回りくどい言い方をするな。恥ずかしいことなのか。言ってみろよ」

「性行為をしてないんだよ」と赤くなりながら僕は言った。

「そういうことか」とネオンは神妙な面持ちで言った。

 何がそういうことなのか僕にはさっぱりだった。

「本当に僕とユリナは性行為をするような関係だったのかい? 仲がよかったのは信じるれる。だけど性行為をしたことは正直ほんの少し疑ってしまうよ。だって彼女から性交渉してこないんだよ。今までの僕なら間違いなく彼女は性交渉してきたはずだろう」

「お前はユリナとしたいのか?」

「したくないと言えば君は僕を軽蔑するかい?」

「したいといえば賞賛するよ」

「ありがとう。でも今の僕には恋愛感情というものがないんだ。恋愛感情だけじゃない。本当に何もないんだ。僕はユリナが知っている僕じゃない。ユリナが僕の中身に価値を感じてくれていたのなら尚更だ。僕はゴミ野郎だ」

「そこまで自分を卑下することはないと思うぜ。そこまでというか、ちっとも自分を卑下する必要がないと思うぜ。お前は記憶を失いたくて失ったわけではないだろう。事故だよ事故。事故にあった人間が他人を気遣う必要なんてないと思うがね俺は。俺はむしろ事故で記憶を失くしたのなら、それを活かさない手はないと思うよ。不幸になったんだから幸せになろうぜ。男が女としたいのは可笑しなことではないと思うし。それにお前はそもそも自分なんかがユリナとしたらダメ。そうやって自分を律してるような気がするよ。自分は汚れているとでも思っているのか?」

「思っているよ」と僕は言った。迷わず言った。

「安心しろ、みんな汚れているから。お前が汚れているのかはいいとして、みんな汚れているから」

「傷つけるな。僕が記憶を失っていることはバレないようにしろ。ネオンはそう言ったね」

「そうだな」

「今のネオンは私情で押し切ろうとしているように見える」

 何を言っているんだと言いたげな表情をネオンは浮かべた。

「私情で押し切ろうと? 何が言いたいのかいまいち分からねえが」

「僕にも上手く言語化できないよ。でもこれだけははっきりしているように思う。僕とユリナの問題に対して、もう少し慎重だったような気がするんだよ。僕の記憶がなくなった日のネオンには信念のようなものが感じられた」

「考えすぎだろう」とネオンは即興で言った。「お前は昔から思い込みが激しい奴だったよ。そして昔から一人で抱え込みすぎる奴だった。難しく考えすぎる奴だった。思考回路が焼ききれるくらい何度も何度も同じ線に電気を流して蘇らせてその線がちぎれてお前が壊れないか心配になったことも少なくなかったよ。お前らは昔からそういうことをしてたんだ。昔からしてたんだよ本当に。だから今回もしろって言ってんだよ。今まで見たいに。ユリナもその方が嬉しいだろうから」

「でもユリナはそういう話を持ち掛けて来ない。そういう雰囲気になったことはあるけど」

「あるんだろ?」

「あるけどしたがってるように見えないんだよ。僕は無理強いしたくないんだ」

 僕は瞬きせずにネオンの瞳を除いた。ネオンの瞳に映る僕の顔は真剣そのものだった。僕の瞳に映るネオンの顔も真剣だろうと僕は思った。ネオンは緊迫した空気に耐え切れなくなったように両手を上げた。

「俺の負けだよ」と言いネオンの顔に苦笑が張り付けられた。

「俺は昔のお前たちに一刻も早く戻って欲しいんだよ。お前が今まで通りのお前の行動をするようになれば、お前は昔のお前の写し鏡になる。俺はそうなってほしいと思ってしまうんだよ」

「ごめん」と僕は謝罪した。

 僕は心の底から申し訳なくなった。ネオンが言っていることはもっともだ。十年くらいの間親友だった人間が急に記憶を失ったのだ。いつも通りの日々を取り戻すために、僕と昔の僕を照らし合わせ、今の僕が昔の僕になるよう図りたくなるのは可笑しくないだろう。

「お前の記憶が戻れば完璧だなと思ってるよ。今でも本当は信じているよ。お前の記憶が戻ってくれることを」

 僕はネオンにこう言った。記憶がなくなったと。別の人間の人格に割って入ったとは言わなかった。別の世界線から来た人間が、別の世界の人間の器を乗っ取ったという話など、信じてくれないと思った。それに話したところで面倒なことになると思った。面倒なことになるくらいなら記憶を失ったという伝え方が一番いいと思った。記憶を失ったと説明した方が圧倒的に理解しやすい。

 それに、先程ネオンは言った。記憶が戻ってくれることを信じていると。

 ネオンが、僕が記憶を取り戻す可能性があるという発想に至ることを僕は想定していなかった。だが、結果的にネオンに希望を与えることになった。結果的に希望を与えた。ネオンは絶望させなかった。それはとてもいいことのはずだが僕の中にはもやもやがあった。

 僕の記憶が戻るかもしれないという可能性を与え続けるのかと。無慈悲な現実を長引かせるのかと。僕は正しいはずの自分の選択にぞっとした。

「お前は今どんな顔をしているか。それが自分でわかるか」

「どんな顔?」

「やっちまったて顔をしている」

「僕はもしかすれば君に酷いことをしてしまっているのかもしれない。もし僕がそれを君に言ってしまえば君は悲しむかもしれない」

「悲しむだけなのか?」

「わからない。でももしかすると絶望の淵に叩き落とされて気づけば地獄にいるかもしれない」

「地獄にいる。つまり俺は死んでいるということか。自殺でもするのかね俺は」

「比喩じゃないよ。君は本当に死ぬかもしれない」

「そうか。そうなのか。お前は俺を絶望の淵に落とせるのか。絶望の淵に落とすための悪魔の武器を持っているのか」

「そうだよ。僕は君をどん底に突き落とす武器を持っているんだ。本当にその通りだよ、考え方を変えれば武器だよ」

「その武器を使わないという選択肢はあるか?」

「まさに僕が今とろうとしている」

「なら何も言うな。そんな武器はぽいと捨ててくれ。すぐそこの森にでも。そして捨てて、お前は忘れればいい」

「いいのかい?」

「お前に選択肢があるんだ。お前が決めればいいんだ」

「ネオン、君は僕のことをどう思っているんだい?」

「前にも伝えただろう。今のお前と昔のお前はあまり変わりがないんだ」

「あまり?」

「言葉の言い回しが違うのさ。本当にそれだけで性格はまるっきり同じさ。つまり何が言いたいって言うとだな。俺はお前のことを友達として好きなままだよ。しかしお前を友達として好きなままでいいのかという悩みもある。なぜだろう。それはお前が記憶を失い、別の何者かになったからなのかもしれないな」

 そう言って、足元で構ってほしそうにしているジークをよしよしとネオンは撫でた。別の何者か。僕の胸に、ネオンが言ったそれはしこりのように残った。

「話過ぎたな。これだけの時間を勉強に費やせば、お前は今の二倍賢く成れていただろう」

「言い返す余地がないよ。前提が、レベル10まであるとすれば0,5くらいだからね」と苦笑を浮かべながら僕は言った。数学で応用問題を出題された。しかし計算の仕方がわからないというそれに今の僕の状態は似ていた。今この瞬間にテスト用紙を渡されると、無残な結果に終わることに違いなかった。

 僕はしばらくの間勉強した。ネオンはひたすらに常識的な説明をしてくれた。常識的な説明を、つまらなそうな顔一つせずにしてくれた。学ぶことはまだまだ多いが、幾分かマシになったと僕は思った。それくらいの手ごたえを僕は感じた。もちろん今のままの僕ではまずい。まずいが、そのまずいを覆すほどの味方がいる。ネオンの成績はクラス内でも上位と訊く。今のままいけばなんとなかなるのではないだろうか。

「今日はここまでにしよう」

「本当にありがとう。助かるよ」

「ロアは自分の妹が学校で一番頭がいいのは知っているか?」

「知っているよ」

「それを知っているならユリナに教えてもらったほうがよくないか。同じ家に住んでいれば、俺より頭もいい」

「その通りなんだけど最近は忙しいみたいで」

「何かをしているのか」

「それが僕にもよくわからないんだよ。夕方にいつもいなくなるんだ。少し前までは学校から家に帰って、仕事の手伝いもしていたんだけど。でも最近は仕事の手伝いをせずに家を出て行くんだ。父さんは文句の一つも言わないんだけどね」

「そうか。まあ忙しいのならしたかがないな」

「悪いね。迷惑じゃないのならこれからも教えてくれると嬉しい」

「任せろ」と言いネオンは笑った。

 僕は帰りの支度をして部屋を出ようとした。そのとき、ふと気になっていたことを思い出した。

「半年後に世界が滅びるんだろう。どこでそれを知ったんだい?」

「いつ知ったかとか、そんなのじゃないんだよ。これは定めさ。いつしか、この世界の住民はそれを知っていたのさ。ああ、でもだとすると今思えば不思議だな」

「なにが?」

「記憶を忘れても、世が半年で滅ぶという定めを忘れるのは可笑しくねえか。世が半年で滅ぶことを忘れて、言葉を覚えているなんて。世が滅ぶことを知っている。これは言葉を知っているのと同じくらい常識的なことだと思うんだがな」

 ネオンの言葉を嚙み砕くのが僕は怖かった。僕は嫌な味が出そうな気がしたのでかみ砕かなかった。深く考えることをしなかった。ネオンの顔が盲目に宗教を信仰する信者のような顔だったことも、深く考えることをしなかった。

 僕はそのまま家に帰った。家に到着するころには真っ赤な夕焼けが世界を包み込んでいた。世界が家の中で、夕焼が外装のようだった。

 扉を開けると誰もいなかった。週に一度店が休日のときがあり、それが今日だからだ。僕は自分の部屋に向かった。その途中に父さんに会い、僕はユリナがいるのか訊いた。ユリナは外に出ていた。いつも僕に居場所を言わず、そそくさと消えるかのように、いなくなるのだ。隠しているわけではないのだろうが、そう言う風に見えてしまっていた。結局、ユリナはその日の夜に帰ってきた。晩御飯の前の時間にだった。服装に乱れはなかったが、疲れているように見えた。疲れてはいるが、それは体力的に疲れているだけで精神的には充実しているような雰囲気があった。僕はその日の夜、ユリナが何をしていたのか訊いた。訊いたが、ユリナははぐらかしてなかなか答えてくれなかった。しかし僕が心配していることを強調するとすんなりと答えてくれた。ユリナは魔法の特訓をしていたようだった。僕が場所をきこうとしたときには、ユリナは僕の隣の布団の上で規則正しい寝息を立てていた。この日のユリナの特訓は夕方だけで夜は何もしないようだった。

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