第6話

「碧は、優しいな」

 ぽつりと、昌樹が呟いた。

「なあに? それは私に対する嫌味かしら?」

「もう、勘弁してくれよ。反省はしてるんだから」

「碧とユキちゃんの場合は、ユキちゃんがその日に謝ってるからいいのよ。あなた、何年かけたのよ」

「……すみません」

「ふふっ」


 しつこい! って怒ればいいのに、この件に関しては絶対に怒らないのよね。なんでも私の泣き顔が忘れられないんだとか。

「不器用よね、本当に。嫌われるだけなのに、ちょっかいばかりかけてきて」

「しょうがないだろ。あんな年の男子なんてそんなもんだ」

「どうかしらね? 碧は優しいから、そんな事しないわよ」

「それは……確かにそうかもしれない」

「私に似たのよね」

「そういう事にしておくよ」


 実際、昌樹の小学生時代を思い返せば、碧とは全然違う。昌樹はヤンチャで口が悪くて。先生からもよく怒られていたなぁ。


 碧は優しすぎるくらい。そして泣き虫だ。その点も昌樹と大違い。あの頃、昌樹の涙なんて見た記憶がない。


「あ……」


「なに?」


 突然声をあげた私に、昌樹が反応するけど、私は静かに首を横に振った。


 そういえば一度、昌樹が泣いているのを見たことがあった。

 運動神経がよくて、運動会の徒競走では負け知らずだった。

 そんな昌樹が六年生の時、はじめて負けたんだ。悔しくて、唇が切れるくらい噛みしめて、泣くまいとしながらも目に涙がたまっていた。


 碧にも、いつかあんな風に悔しがる日がくるのかな。

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