第5話

 玄関のチャイムが鳴り、インターホンに映る人を見たら、ユキちゃんのお母さんだった。

 ドアを開ければ、お母さんの後ろに隠れてユキちゃんがいた。お母さんによれば、ユキちゃんが泣いて帰ってきたらしい。聞けば碧にひどい事を言ったからと泣き止まなかったそうで。


 玄関の話し声が聞こえたのか、碧がやってきた。ユキちゃんは、お母さんの洋服をギュッと握りながら、震える声で「ごめんね」って碧に伝えた。

 碧は一瞬驚いた顔をしたけれど、ユキちゃんの傍に行って「いいよ」ってニッコリ笑った。その顔を見て、不安そうだったユキちゃんにも笑顔がもどった。



「ユキちゃんのお母さんから聞いたんだけどね。ユキちゃん、サンタさんに『お父さんを家に返して』ってお願いしたんですって」

 ユキちゃんのお父さんは四月に転勤で九州に行ってしまった。ユキちゃんはサンタさんにお願いすればお父さんが帰ってくるんじゃないかと思ったらしい。でも、それは叶えられない願い。


「サンタさんからの『正月にお父さんに会えるよ』って返事を見て、ユキちゃんはショックを受けたんですって。一日だけじゃなくてずっとお父さんにいて欲しいんだって」

「それは……無理だな」

「でしょう。でも、子供にはわからないわよね」


 願いが届かなくて、ユキちゃんはショックだったところに碧の無邪気な言葉が腹ただしかったから、ついひどい事を言ってしまったと、ユキちゃんのお母さんが教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る