第一章3 『亡霊を操るもの』

「...そうか。カミーユにトッド。それにソルクまで逝ってしまったか。」


場所はユニコーンと戦った大広間。そこへ合流を果たしたフリップにタツヤが事の顛末を話した流れだ。タツヤの話を最後まで聞いてからフリップは俯く。


「おまえ...泣いてるのか?」


タツヤは目を見開いて驚きの声をあげた。


ーーフリップの頬を涙が伝ったのだ。


それを見てタツヤが最初に抱いた感情は怒りであった。何故フリップが泣くのか。フリップとタツヤ達が初めて顔を合わせたのは3日前のことである。雇用主と傭兵。たった3日共に過ごしただけの関係なのだ。それなのに彼は涙を流した。その心は同情か、はたまた憐憫か。どちらにせよそんな安っぽい涙で彼らの死を片付けられることだけは御免だ。


「なんだよその涙。おまえに俺らの何がわかるって言うんだよ!あいつらはそんな半端な覚悟でこのダンジョンに臨んだわけじゃない!!」


内に秘めていた感情が爆発する。それはまるで火山の噴火のごとくタツヤの心から溢れ出す。

頭の中では分かっている。これは八つ当たりだ。別にフリップに対してそこまで怒りは無い。なぜならタツヤが本当に怒っているのは三人を救えなかった自分自身に対してなのだから。


自分にもっと危機感があれば、ユニコーンに近づいていく前のカミーユを止めることが出来たはずだ。

自分にもっと人望があれば、トッドとソルクを説得して大技から守ってあげることが出来たはずだ。

だがやり直すことなんて出来ない。過ぎ去った時は戻らないのだから。


憤慨するタツヤをフリップは、その水色の凛々しい瞳で真っ直ぐ見つめている。


「...知っているとも。」


「あ?」


「ソルクは死の大地と化した故郷を復興させる為。トッドは村の貧しい子供達に十分な教育を受けさせる為。」


「ーー!」


「そしてカミーユは不治の病を患っている妹の為。...妹の為という点ではタツヤ、其方と同じであるな。」


「おまえ...なんでそれを知って。」


三人が多額の資金を欲している訳。それを淡々と口にするフリップにタツヤは2度目の驚きの声をあげた。


「無論、彼ら一人一人と話をして知った迄よ。身命を賭して余を護衛する者の事を知り、その遺志を継ごうとするのは何もおかしなことではあるまい。...それが力無き余の、せめてもの償いでもある。」


「......。」


「だが余の涙がタツヤの癇に障ったのならば、その非礼を詫びよう。すまなかった。」


「いや、顔を上げてくれフリップ。謝らなければならないのは俺の方だ。」


タツヤに頭を下げるフリップ。だが謝らなければならないのは勘違いをしていたタツヤの方だ。フリップは本気で彼らの遺志を継ごうとし、それでも涙を流した。その涙の訳は、おそらくタツヤと同じで自分自身の力の無さを嘆いたものだろう。

タツヤはフリップに顔を上げさせて、その前に跪く。


「フリップ、勘違いで怒声を浴びせてしまってすまなかった。あんたは立派なやつだよ。あいつらの遺志を継いだあんたを俺が必ず守ってみせる。...この命を懸けてでも。」


「うむ。だが絶対に死ぬでないぞ!」


目には涙を浮かべながらも満面の笑みでそう返す金髪の青年。そんな彼を絶対に守ってみせるとタツヤは心の中で誓ったのであった。

そんな2人のやり取りを静かに見守っていたポニーテールの少女マリーが、自分を指差しながらフリップに尋ねる。


「ねぇねぇフリップ。アタシの目的も覚えてるの?」


「無論だとも。確か、自分だけのもふもふ王国を作ることだろう?」


「...なんか急に俗っぽくなったな。」


「酷いタツヤ!別にどんな目的があっても良いでしょ!?」


凄くしょうもない理由で命を懸けているマリー。それを聞いて呆れているタツヤを見て、彼女は唇を尖らせたのだった。



△▼△▼△▼△



タツヤ達は順調にダンジョンを進んでいき、大きな扉の前にたどり着く。それは天まで届くほど高い扉。20メートルはゆうに超えているその扉を全員で押してなんとか開く。扉の重々しい音が辺りに鳴り響いた。


「ここがどうやらボス部屋みてぇだな。」


中は真っ暗な大広間。ユニコーンがいた部屋も広かったが、それよりも5倍は広い。部屋の端には黒い火灯がいくつも置かれている。

ダンジョンの最奥に鎮座し、宝具を守護している存在。その呼び名は守護者、ボス、監視者など様々だが、重要なのは彼らが必ずダンジョン挑戦者の前に立ちはだかるということだ。その実力は折り紙付き。S級ダンジョンなら尚更だ。


タツヤ達はフリップを扉前に残して、恐る恐る部屋の中へと入った。しかし、


「何も出てこない?」


「あーそういうことか。」


何も反応がない様子に首を傾げるタツヤ。しかしダンジョン経験豊富なリュウは何かに気づいたようで、扉の方へと振り返る。


「おい金髪坊主。お前も中に入らねぇと試練は始まんねぇらしい。」


「そうか。承知した。」


意を決したようにフリップが部屋の中へと入る。次の瞬間、大きな扉が勢いよく閉じられた。そして部屋の左右にある火灯に1つずつ、紫色の炎が灯されていき、


ーー広間の中央に宙に浮かんだ紫色の巨大な球体が出現した。


金色の装飾が球体には施されており、その中心には巨大な1つ目が埋め込まれている。その1つ目が大きく見開かれ、緋色の瞳がこちらを向いた。


「てめぇら、戦闘準備だ!」


リュウの合図でタツヤ達は各々の武器を構えた。そしてじっくりと守護者を観察する。正直いってどんな攻撃を仕掛けてくるのか皆目見当もつかない。すると守護者の緋色の瞳が怪しく光った。


「ありがちなのは目からビームとかか?」


そんなタツヤの予想は大きく外れ、紫色の靄と共に剣や槍、銃など様々な武装をした10名の人間が出現した。


「人?ってうわぁ!?攻撃してきたんだけど!」


その内の1人が剣でマリーに斬りかかる。その攻撃をマリーはバネ足場を使って後ろに跳躍して躱す。


「なんか喋りなさいよ。おーい、聞こえてますかー?」


「...無駄だマリー。この人達、操られてるよ。それに生気がない。」


「つまりもう死んでるってこと?」


マリーの導き出した答えにタツヤが無言で首肯する。彼らの顔には血の気がない。常に無表情で、何者かに操られているかのような不自然な動き。そして何よりも、


「こんなダンジョンの最奥でいきなり生きた人間と出くわすわけねぇだろ。馬鹿か。」


マリーの対話の姿勢を馬鹿と評したリュウ。言葉は強いがその内容にはタツヤも同意だ。おそらく彼らは守護者が生み出した操り人形。

リュウは向かってきた三体の人形に対して大剣を一振りした。その一閃は人形達の胴体を両断する。シールドも張らずに猪突猛進してくる存在など、彼にとっては虫けら同然であった。


両断された人形達は紫色の靄となって消失する。それを見て人間では無い事を確信するタツヤ達は、他の人形達を次々と処理していく。

いくら武装していようとも、意志を持たない人形が人間に勝てるはずがない。

それに何故か先程から身体の調子が良いのだ。フローラもその事に気づいたようで不思議そうに首を傾げる。


「なんだかいつもより身体が軽い気がするのです。どうしてでしょうか?」


「それは余の固有能力じゃな。範囲内の味方の能力を向上させる力じゃが...如何せん殆ど使った経験が無い。しかし直接戦えぬ余が出来るのはこれくらいしか無いのでな。」


「凄い力ですよこれは。フリップさん、自信を持ってください!」


予想外のフリップの能力に驚く一同。護衛対象であるフリップを戦いの前線に立たせることなんてしなかった為、今までこの能力を目にする機会が無かったのだ。

それにしても味方にバフを付与する固有能力というのはかなり希少である。フローラの言う通り、フリップはもっと誇っていい筈なのだが、彼はあまりその能力の凄さに実感が湧かないようであった。


そんなフリップに対して守護者の目玉がギロリと向いた。今までこちらを睥睨するだけで、何もしてこなかった守護者。しかし今の行動は不思議と能動的なものに思えて、タツヤはぞっと背筋が凍った。嫌な予感がしてフリップの元へと駆け出す。


「フリップ!勘違いなら悪い!」

「どうした!?タツヤ。」


フリップを押し倒す勢いでタツヤが突っ込んだ。予想外の突進で体勢を崩して横に倒れるフリップ。


ーーすると先程フリップがいた場所にレーザー光線が放たれたのだ。


それはもちろん守護者からの攻撃。守護者は目から光線を発射してフリップを亡き者にしようとしたのだ。その目論見はタツヤによって阻止される形となる。


「結局目からビームするのかよ!!」


「余を助けてくれたのか。礼を言うぞ、タツヤ。」


「おう!ーー必ず守ってみせるって誓ったからな。」


フリップから感謝されるタツヤ。だがフリップの支援能力が無ければ、タツヤの決死の突進が間に合うことは無かった。これは二人で勝ち取った奇跡なのである。今度こそ仲間の命を救うことが出来て、タツヤは安堵の息を漏らす。


「ふわふわ宙に浮きやがって。叩き落としてやるよ。」

「早々にご退場願います。」


リュウがその巨剣でシールドを破壊し、エンダが巨斧をさらに巨大なものへと肥大化させていく。エンダの固有能力『高慢なる斧』は自身の斧を好きな大きさに巨大化させられるというものだ。その気になれば彼は大地を割り、大海を二分することだって出来るだろう。

守護者の身体も巨大だが、それ以上に巨大化した巨斧の一撃が守護者の球体の身体を真っ二つにする。


ーーしかし守護者は何事も無かったかのようにその身体を即座に回復させた。


「やっぱりこいつも急所を破壊しないといけないのか。真っ二つにされて無事ってことは球体の中心が急所ではないってことだよな。」


タツヤが守護者の弱点について思案していると、突然隣でフローラが不敵な笑い声を上げた。彼女はおっとりした目をキリッとさせて、ドヤ顔で杖を守護神へと向ける。


「目玉お化けに対してどんな魔法が効くのか考えていましたが、ーーとうとう思いつきました。」


「おお!」


そんな堂々としたフローラの立ち振る舞いを見て、タツヤは期待の眼差しを彼女へと向ける。その期待に応えるかのようにフローラは杖を振る。青色の光が守護者へと向かっていき...


「これは、守護者が泣いてる?」


「はい!目から涙が止まらなくなる魔法です!」


「超要らねぇ!!」


「その言い方はちょっと酷すぎませんか!?」


タツヤの盛大なツッコミを受けてフローラが喚く。思い出した、フローラが役に立つ魔法を撃つ事の方が少ないのだ。奇しくもユニコーン戦で活躍してしまったせいで忘れていたが。


「まだです!実はこの魔法の真の効果はそこじゃありません。目玉お化けの眼球をよく見てください。」


「なんか固まってる?」


「そうです!実は涙ではなく接着剤。これによって目玉お化けは目を閉じることも、動かすことも出来なくなりました!」


「まあ目からビーム攻撃が少しは緩和される...のか?」


「微妙な反応ですね...」


フローラによる更なる追加の説明。しかしその効能についてタツヤは懐疑的である。目が動かせないというのは大きいが、身体自体を動かして狙いを定める事だって可能な筈なので、目からビーム攻撃の根本的な解決には至っていないように思える。


眼球から接着剤を垂れ流し続ける守護者。しかしそれに怯むことなく、その緋色の瞳を光らせた。


紫色の靄と共に現れたのは青色のサラサラ髪を首元まで伸ばしている美丈夫。右手にはスナイパーライフルが握られている。


「また人形かよ。」


タツヤは呆れたように呟く。人形など自分達の敵では無い。それに前よりも数が圧倒的に少ないのだ。負ける道理が見当たらなかった。

しかしその現れた人形を見て血相を変えた人物が1人。それはなんとこの傭兵団最強であるリュウ団長であった。彼はすぐさま大剣を手放し、両手にレーザーランスを装着して、その人形に向かって突っ込んでいく。


「なんでこんな所にいやがんだ!カルロス!!」


その人形カルロスは不敵な笑みを浮かべ、


ーー左手で黒色の筒を生成した。その筒から赤色のレーザーが展開される。


光刃と呼ばれるその武器を持ってリュウと刃を交えるカルロス。彼は懐かしむような目でリュウ団長を見てから、口を開いた。


「久しぶりだね、リュウ。百花繚乱解散以来か。元気にしてた?」


「あったりめぇよ。お前はとっくにくたばっちまったと思っていたがな。」


「...その通り。ダンジョンの最奥で仲間と共に僕はとっくにくたばったよ。今のこの姿は亡霊とでも言うべきかな。」


自ら武器を生成し、言葉も発したカルロス。先程の人形とは明らかに違う様子に頭を悩ませていたタツヤだが、その答えをカルロスは隠す様子もなく堂々と語ってみせた。操り人形ではなく、亡霊。だからこそカルロスはこうして、自分の意志で話し、リュウと対峙している。


「それでその亡霊風情がどうして俺様達の邪魔をする?」


「このダンジョンの宝具を外に出したくないからさ。さっきの人達も僕の仲間、亡霊だよ。」


「じゃあてめぇも無口無表情の操り人形でかかってこいや。」


「僕もなんで自分だけがこうして意識があるのかは分かってないんだけど。おそらく守護者と目的は一致してるから、心を通わせられたみたいな?」


「気色がわりぃったらありゃしねぇ。」


刃を交えながらリュウとウキウキで話しているカルロス。そんなカルロスの背後に大きな影が1つ生じる。それは巨斧を振り上げたエンダであった。


「リュウ団長に同感です。気味の悪い亡霊なんてとっとと成仏してしまえばいいのですよ。」


「やめろエンダ!死ぬぞ!」


「死ぬのは亡霊の方ですよリュウ団長。いや亡霊は既に死んでいるのですが。」


リュウの必死の警告。それを無視してエンダがその巨斧をカルロスの脳天目掛けて振り下ろす。両手の塞がったカルロスの背後をとったエンダ。タツヤの目から見ても、エンダが圧倒的優位であることは疑いようもなかった。しかし、


「あれ?外しましたかね?」


エンダの一撃はしっかりカルロスの脳天を直撃していたように見えたのだが、何故かカルロスは無傷である。


ーー次の瞬間、エンダの綺麗な頭がかち割れる。


「ーーカウンター。あらゆる物理攻撃を跳ね返すのが僕の固有能力です。」


カルロスの遅すぎる能力開示。それを聞くこと無く、エンダがその場に倒れ、光の粒子となって消滅する。


「こいつ!エンダをよくも!!」


それを見たタツヤが激昂したままアサルトライフルをカルロスへとぶっぱなす。しかしその銃撃を分厚すぎるシールドでカルロスはあっさりと防御する。


「まあだからといって遠距離攻撃が効くわけでもないんだけど。」


「あ、アタシは双剣しか使えないからどうしよう。」


「これが百花繚乱。伝説の傭兵団の力かよ。」


あたふたしているマリーを横目にタツヤは予想外の強敵の出現を呪う。

たしかカルロスは百花繚乱という言葉を口にしていた。それは今から100年前にあったとされる伝説の傭兵団の名前だ。魔王と呼ばれる世界の敵を討ち取って、世に平和をもたらした集団であり、かつてはリュウもそこに所属していたらしい。


タツヤはてっきりリュウ団長の法螺話だと思っていたのだが、こんな化け物と知り合いなのだからその話も現実味を帯びてくる。


「だがレーザー兵器による近接攻撃だけはカウンター出来ねぇ。」


「いやぁ相手が元仲間だとやりにくいですねぇ。脳筋なリュウならそんなことすっかり忘れて、普通に殴りかかって来てくれると思ってたんだけど。」


「...俺様だって100年経てばちったぁ頭くらい使うようになる。おい、おめぇら!ここは同じ百花繚乱の元メンバーである俺様に任せとけ。お前らは目玉野郎のビームにだけ注意しろ!」


「了解!」


リュウの指示に従い、タツヤ達は守護者を注視することにした。それは団員みんながリュウ団長の事を信頼している証だ。カルロスは化け物だが、タツヤにはリュウの負ける姿がまるで思い浮かばない。最強という肩書きが世界一似合う男。それが我らが団長なのだから。


「おらおらおらおら!!」


「これは両腕を使う必要がありそうだ。」


リュウがカルロスに猛攻をしかける。それを受けてカルロスが右手のスナイパーライフルを上空に乱射してから放棄し、右手に光刃を生成する。光刃の二刀流でリュウの猛攻を何とか防いだ形だ。


「正面から馬鹿正直に物量勝負。やっぱり変わんないねリュウは。」


「そうやってすぐに上から目線で結論づけるのがてめぇの悪い癖だカルロス。だから足元のこいつにすら気づけねぇ。」


「え?」


後ろに一歩下がって距離を取ろうとしたカルロス。そしてその下にはリュウ団長が生成した地雷があったのだ。咄嗟にシールドを足元に展開するカルロス。だが、


「これは爆発では無く、煙幕?」


「素直に全体シールドしておけばいいのに、無駄に優等生だからやられんだよ。」


その地雷は爆発ではなく、煙幕を撒き散らすものだったのだ。煙幕によって視界を遮られたカルロス。そして次の瞬間、背後からレーザーランスが突き立てられる。心臓を貫かれたカルロスは光の粒子を出しながらその場に倒れた。


ーー何故かまだ消失する気配は無い。


「ふーん。ちょっとは変わったみたいだねリュウも。悔しいなぁ。」


「狙撃手のてめぇが俺様と正面からやり合って勝てるわけねぇだろ。スナイパーライフルを捨てた時点でカルロス、てめぇに勝ち目は無かった。」


「ここ障害物とか全然ないし、前衛無しの一人きりで召喚されたんだよ?仕方ないじゃん。真正面から戦うしか無かったんだよ。」


唇を尖らせ、不満を口にするカルロス。完全に諦めムードだが、そんな彼が突如不気味な笑みを浮かべる。


「ーーだけどこの僕が愛銃を捨てたって?それだけは的外れだよリュウ。」


次の瞬間、リュウ団長の頭上から弾丸が降り注ぐ。それは先程カルロスが上空に向かって乱射していたスナイパーライフルの弾丸だ。カルロスは上で弾丸を固定したままその機をうかがっていたのである。


リュウを巻き添えにする為に自身諸共狙った自爆攻撃。その弾は分厚いシールドすら容易く貫通するものだ。ガード不可の必殺の一撃。しかし、その攻撃を予知していたかのようにリュウ団長は後ろに飛んだ。


「やっぱりてめぇが愛銃を手離すわけねぇ。なんか気味悪ぃと思ってたんだよな。」


「うわぁ、リュウに心理戦で負けるとか。末代までの恥。」


結果、カルロスだけがその弾丸を食らう羽目になった。穴だらけの顔を手で覆って恥ずかしそうにするカルロス。そんな彼を見てリュウがある疑問を口にする。


「...てめぇがこのダンジョンで死ぬなんて考えられねぇ。いったい何があった?」


「御明答。もちろんこのダンジョンの守護者までは倒したよ。ーーけれど僕には覚悟が足りなかったんだよ。」


「覚悟?なんだそりゃ。」


「まあリュウには問題なさそうだから大丈夫。それに、もう残された時間も無いらしい。」


寂しそうに笑ったカルロスは天を仰ぐ。それから別れの言葉を告げた。


「案外生き返るのも悪くないもんだ。それじゃあ地獄で待ってるよ。リュウ。」


「はっ。俺様は天国に行くからもう一生会えることはねぇな。あばよ。」


紫色の靄となってカルロスが消失する。それを見ていたリュウの横顔は、珍しく穏やかなものであった。



△▼△▼△▼△



亡霊カルロスを打倒し、再び守護者と相対するタツヤ達。亡霊を操ったり、召喚したりと、この守護者は搦手を使う攻撃が得意らしい。


ーーまた守護者の緋色の瞳が妖しく輝いた。


もう何が来ても驚かない。そう思っていた矢先、タツヤは再び面食らうこととなる。


「...ツクヨ?」


タツヤの前に現れたのは銀色のショートヘアーの髪型をした美しい少女。タツヤと同じで着物を着ており、その綺麗な瞳で真っ直ぐこちらを見つめている。


「兄様、こうして再びお会いすることが出来て嬉しいです。」


ーー笑顔で微笑んだ最愛の妹の姿がそこにはあった。

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