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ようやく帰宅が叶った私は、荷物を放り出し、ベッドに身を投げ出しました。自ずと苦痛に苛まれた日々が頭をよぎります。今は頗る気分がいい。伸びをして目を閉じる。しばらくして、あの言葉が、まるで脳ミソに蔓延ったカビのように蘇って思考を促すのです。寝返りを打っても別の何かを想像しようと躍起になればなるほど、同じフレーズが頭を支配する。
「へんせいけんたい」
──へんせいけんたいへんせいけんたいへんせいけんたい……
ひとたび声に出してみますと、呪文か経のように脳髄に反響し出します。忌々しいリズムはいつまで経ってもやむことはないので、とうとう私は起き出して書架から辞書を携えて机の前に座った。
まず、“けんたい”を引いてみます。相応しい意味の漢字は、ふたつしかありません。検体と献体。
次に、“へんせい”を引くと、やはり編成が一番に目に入りました。今更解説を読む必要もなく、また項目を辿ります。と、興味深い記述を見つけ、その言葉に目が釘付けになりました。
『変生』
“へんじょう”とも。どうやら仏教用語で、別の姿に変わること、仏の功徳によって生まれ変わること、また、その生まれ変わったもの、と記述されています。
“けんたい”は献体をあてがうとして、遺体ではなく生体のまま献体してもらう。そして、他の患者に提供する。
“へんせいけんたい”は漢字で記すならば、変生献体がしっくりといく。
『変生献体術』
生ける献体にて生まれ変わらせる術式。ということになりましょうや。どうやら最新の術式であることは間違いないようですが、何とも妙ちくりんな療法の感は否めません。
ツギハギだらけの私の体。普通の術式なら、こんな醜い傷は残らないのに、と思います。だが、こちらのほうが痛みも少なく苦しくないと直感した。
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