第10話

 2月末。絵美は瑠衣と美保子と一緒に、箱崎施設長にお花見の企画を話した。

 参加するご利用者様は、外に出ても問題ないかただけ。10名をリストアップした。

 3月中、午後の30分だけ、1台の車でひとりのご利用者様を「ソレイユ」の裏の公園にお連れする。車は「ソレイユ」の駐車場に駐めさせてもらう。

 それを聞いた箱崎施設長は、渋い顔をした。

 美保子が、すかさず話す。

「施設長が、ご利用者様には安全な場所にいてもらいたいと考えていることはわかっているつもりです。でも、職員が付き添った上での外出なら、不可能ではないはずです。娘が、他所の施設のかたをよく見かけるそうです。楽しそうにお散歩しているそうですよ」

「楽しそうに、ですか」

 箱崎施設長は、意外そうだった。

 考えさせて下さい、とお花見の参加者のリストを受け取った。

「10年前……開所当時は、レクリエーションの一環として天気の良い日に近所を散歩しておりました。入居者様には大変好評でしたが、近隣住民から『痴呆老人を野放しにするな』と苦情が多数寄せられ、警察に通報されました。しかし、もうそんな価値観の時代ではないのかもしれませんね」

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