第9話

 お花見の日時、場所、担当する職員、参加するご利用者様、車で移動するのか否か。

 考えることが山積みで、絵美の頭の中はパンクしそうだった。

 お花見の場所は、「ソレイユ」の裏の公園が良いと思っている。

 さっそく、勤務後に寄り道をして「ソレイユ」まで行ってみた。車を停める気はなかったが、店のシャッターを降ろそうとしていた店長が絵美に気づき、手を振ってくれた。何か話したい様子だった。

 絵美はハザードランプを点けて車を路肩に停め、車から降りた。

「うちに駐車しちゃいな。よかったら、スイーツ持っていってよ」

 お言葉に甘えて駐車場に車を駐めさせてもらった。

 バーのマスターのように渋いオジサマな店長は、気さくな人だ。

「ごめんな。陽葵はるきは休ませたんだ。今日はあの子の両親の命日なんでね」

「すみません! 何も知らずに……!」

「いやいや、言ってなかったもんな」

 店長は、ショーケースに残ったスイーツを、どんどん箱に詰めてゆく。

「大木さんが夕方に来るなんて、珍しいね。何かあった?」

「私、名乗りましたっけ……?」

「うちのスタンプカードと間違えて、健康保険証を出したことがあったでしょう。『日なたの庭』の大木絵美さん」

 うわあ、やっちまった。絵美は心の中で頭を抱えた。

「お花見を企画したくて、公園の下見に来ました。でも、公園に駐車場はないし、路上駐車もできないので、行き詰まっていたところです」

「うちの駐車場、使いなよ。使いたいときに声をかけてくれれば良いからさ。公園の桜、色々種類があって綺麗だから、お年寄りにも見せてあげてよ」

「ご迷惑ではありませんか?」

「とんでもない。陽葵だって喜ぶよ」

 箱にきっちり詰められたケーキは、宝石のようだった。美しくて食べるのが勿体ない反面、当面の間の主食代わりになると思うことにした。

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