第8話

 次の勤務日に、美保子にもお花見の案を話したら、ばっさり言い切られた。

「厳しいね」

 美保子は勤続7年のベテランだ。介護現場の実質的なリーダーでもある。

「他所の施設がやっているのは、知ってるよ。以前の職場でもやっていた。でも、ここでは通用しない」

 なぜですか、と瑠衣が可愛く憤慨した。

「うちのレクリエーションは、敷地内で行うのが暗黙のルールなの」

「確かに」

 絵美は頷いてしまった。

 ご利用者様と昼食を調理する「ランチレク」、製菓をする「おやつレク」、敬老会、クリスマス会、忘年会、新年会、日々の外気浴。全て、施設の敷地内で行われてきた。

 施設の庭は、車椅子が通っても安全なように舗装されている。桜や梅、あじさい、キンモクセイ、みかんなどの木が植えられ、花や野菜も育てている。敷地内で娯楽が完結しているのだ。そのようにしたのは、施設長の箱崎はこざき梢子しょうこだ。絵美の母親くらいの年齢で、おっとりしているように見えるが、決定権は強い。10年前に、ひとりで「日なたの庭」を設立した人なのだ。

「でも、企画しないのは勿体もったいない。考えを煮詰めて、なるべく完璧に計画してから、施設長に報告しよう」

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