第7話

 夜勤明けの次の日は、休日だ。

 絵美は車に乗って、大型スーパーまで買い物に出た。

 帰り道、他所の施設のご利用者様と職員を見かけた。不意に、車に轢かれて亡くなった祖母のことを思い出した。自分は加害者側になりたくない。怖くなり、スピードを緩めてから路肩に停止した。

 職員は車椅子を押しながら、横断歩道を渡らずに公園に入ってゆく。他にも車椅子の高齢者が公園で待っていた。

 まだ2月だ。公園の桜は咲いていない。他に見るものもない。それでも、気持ち良さそうに空を見上げている。

 これだ。絵美は思いついた。来月のレクリエーションは、お花見にしよう。

 浅薄な思考回路で熟慮せずに行動してしまうのが、絵美の悪い癖だ。すぐにスマートフォンを出し、瑠衣にメッセージを送った。

『来月のレク、外にお花見に行くのはどうかな?』

 返事はすぐに来た。

『良いですね! 前のところでも、毎年恒例でした!』

 瑠衣の前の職場は、「日なたの庭」のような施設だが、入居者が「自分達はお客様なんだから、何をしても許される」という考え方の人達ばかりで、職員の人格を踏みにじる行為が常態化していた。瑠衣は感染症の疾患のある入居者に目をつけられ、病気をうつされそうになった。その入居者は家族の希望もあって他施設への入所が難しく、瑠衣が転職をすすめられた。経営者が「日なたの庭」の施設長と知り合いだったこともあり、瑠衣は「日なたの庭」に就職できたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る