第3話
朝、早番の職員、
「わあっ!」
御崎八重子様が歌うのを止め、目をまるくした。しかし、一瞬だけ。またすぐに「故郷」歌い始める。
「朝一で庭から取ってきたの。喜んでもらえて、良かった」
美保子はベテラン職員で、ガーデニングが趣味だ。一人娘も、美保子の影響で造園が学べる高校に通っているらしい。
「八重子も、あんな反応をなさるのですね」
瑠衣も、嬉しそうだ。
八重子様は意思疎通が難しく、自分で体を動かすこともできない。昼間はティルトとリクライニング機能のついた大きな車椅子に座ったままだ。たまに職員が車椅子を押して敷地内の庭を散策したり、ベッドで静養するが、自分からレクリエーションはできない。家族は遠方にいるため、面会にも来られない。
「八重子様に何かしてあげたいです」
真面目で純粋な瑠衣がこぼした本音が、絵美には引っかかった。
「してあげたい、なんて傲慢だよ。我々は、支援させて頂く身なんだから」
すみません、と瑠衣はしゅんとなってしまった。
言わなければ良かった、と絵美は後悔した。反射的に頭ごなしに否定してしまうところが、絵美の悪い癖だ。瑠衣とは言い方が違うだけだ。絵美だって、八重子に何かさせて頂きたいと思っている。
瑠衣とはぎくしゃくしたまま、10時に夜勤業務を終えた。
「おふたりさん」
タイムカードを押したふたりに、美保子が声をかける。
「来月のレクリエーション、あたし達が担当だから、よろしくね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます