第39話 魔剣の正体

 薄暗いカダス商会の会議室には、アルフィンたちにバレンシアの父親のイサークも含めたメンツが顔を揃えていた。

 中央に置かれたテーブルの上には、確保してきた日記や資料が並べられていた。


「まずは長旅ご苦労だった。無事に炎の剣を確保してきてくれたことに、最大の礼を述べたい。ありがとう、感謝する」


 感謝の言葉を述べたイサークは、テーブルの上に並べられたものを見て、それでこれは? というように説明を求めた。


「これは~……マイス遺跡で確保してきた資料ですわぁ~。うふふふ……」


 やや寝不足気味の目をしたベルが説明をはじめた。


「あの〝大変動〟直後のバジュラム起動後の事態が、色々と書かれていますわぁ……」


 それだけ言うと、説明するのが面倒臭いというようにアルフィンに目配せをしたため、アルフィンは仕方なく席から立ち上がって説明をはじめた。


「本来ならバジュラムは魔物だけを狩る予定だったようです」

「予定だった……? それがなぜ?」

「未完成なんですよ。アレでも」


 天変地異である〝大変動〟が起こる直前の超帝国も、魔物の跳梁に悩まされていた。その結果、フォートレスを産み出したわけだが、さらに無人自律行動で魔物を狩るフォートレスとしてバジュラムを作り出した。しかし、その自律行動の部分が未完成のまま〝大変動〟を迎え、魔物の大発生を目にした技術者が起動してしまい、そのままになったというのが大まかな流れだった。


「そのままになった……。なんと迷惑な……」

「オマケに、実はアレ一体じゃないみたいです。ケープ・シェルの近所に居座ったのがアレだけで、大陸全域に何体いるか分からないということです」


 様々な政治的闘争をしてきたイサークも、さすがに大陸全域に何体いるか分からないという言葉に驚愕の表情を見せた。いつどこで、あの驚異的な破壊力を持つバジュラム型と遭遇するか分からないということになる。さらに、今、接近してきている物を倒しても次がある可能性が否定できないことが問題だった。


「それで、炎の剣とやらは、バジュラムの対抗策になるのか?」

「分かりませんが、バーン・ブレードなのでかなり有効な武器だと思います。ただ……」

「ただ……なにかね?」

「ソウル・イーター・システムという得体の知れないシステムが関係しています」


 初めて聞く言葉にイサークは一番造詣が深そうなネビルに目をやったが、ネビルも肩を竦めただけだった。


「魂を糧とするシステムのようです」

「つまり……?」

「生き物を殺せば殺すほど、威力が増します」

「なんだと……」


 さすがにアルフィンに説明させてばかりでは悪いと思ったのか、ベルが立って代わりに説明をはじめた。


「うぅ~ん……エーテル・ジェネレーターのエーテルってご存知ですわよねぇ?」

「申し訳ない。エーテルが具体的にどんなものか、私は知らぬ」

「今もこの待機中に存在している精霊たちが産み出している物質が、エーテルというものですのぉ……。魂も似たようなものですわぁ……」

「エーテルと魂が似ている?」

「同じようなエネルギーですのぉ。生体を動かす力ぁ……ですねぇ……。ただし、エーテルよりも高純度で、より大きな力を持っていますのぉ……ふふふ」

「つまり、エーテルは半物質的な精霊が産み出すもので、魂は肉体という物質を動かせるエネルギーだからより大きな力を持つ……と?」

「そうですわぁ……。それを得ることによって、炎の剣は〝破滅の剣〟となりますのぉ~」

「破滅の……剣?」


 イサークが視線を投げた先には会議室には倉庫に向けて開けられたガラス窓があり、そこからエスパダが件のシャムシールを捧げ持つようにして立っているのが覗き見られた。

 禍々しい印象を抱かせるシャムシールは〝炎の剣〟でもあり、〝破滅の剣〟でもあると説明され、イサークは困惑した。


「どう違うのだ?」

「ええと。私が説明します。どうもソウル・イーター・システムで求魂することにより、エーテル・ラインという物を発生させて、バーン・ブレードでありながらブレード・ウィップになるという存在です」

「そもそも、バーン・ブレード用のジェネレーターは?」

「それも、内包しているようです。だから、戦場で戦えば戦うほど、あの武器は魂を吸って破壊力を増す武器ということです」

「では……死んだものがいなければ?」

「ただのバーン・ブレードです」


 魂を啜って強くなる武器。確かにそれは禍々しさに相応しい性能だった。


「これがあれば……バジュラムに勝てるのか?」

「分かりません。元々、ソウル・イーター・システムは、バジュラムに搭載される永久機関のための装置です。バジュラムの起動を知った研究者が、それを止める手段として作ったようですが、一度も使われたことはありません」

「ぶっつけ本番ということか……」


 どうも心許ない話だった。

 対抗手段と思っていたものが、完全な対抗策か分からないぶっつけ本番兵器なのだから。


「バジュラムと戦うには……」


 そこまで言いかけた時、会議室のドアが激しくノックされた。


「入りたまえ」

「失礼します! バジュラム発見との報告を受けました! ケープ・シェルとクラウツェンの間の森で、昨日見かけたとのことです!」

「昨日か……。どっちに向かうと思うかね?」


 誰もその質問に対して明確な答えを出せる者はいなかった。

 だが、ネビルは片手を上げて立ち上がった。


「どっちに向かうかは関係ねえだろうな。先にくるか、後にくるかだ。人生と変わらねえ。先行きなんか見通しが立つわけがない」


 そこで一度言葉を切ったネビルは、不敵かつ好戦的な笑みを浮かべてイサークを見た。


「どうする? このまま俺たちに任せるか? それとも、腕利きのパイロットを今から探すかい?」


 もちろん、イサークの腹づもりも決まっていた。


「キミたちに任せる。責任は私が取る。バジュラムという魔神を狩ってきたまえ!」

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